Google 検索はフェイクニュースや情報の分断化にどう向き合っているのか?

Google 検索はフェイクニュースや情報の分断化にどう向き合っているのか?

Google マップやGmail、Google Workspaceといったサービスから、ChromebookやPixelシリーズなどのデバイスまで、幅広く展開しているGoogleですが、その原点とも言えるのがGoogle 検索です。

インターネットを利用するうえで欠かせないGoogle 検索は、モバイル環境への対応やAIの採用など、着実に進化を遂げています。その過程はどのようなものだったのでしょうか。今回、Google 日本法人が2021年9月で創立20周年を迎えたことを記念して、Google 検索のエンジニアチームにおける、日本オフィスの責任者を務める今泉竜一氏にインタビュー。Google 検索のこれまでと現状、そして今後についてお話を聞きました。

ユニバーサルサーチ/モバイル化/AIの、3つの方向性で進化してきた

―― まずはGoogle 検索の歴史を振り返っていきたいと思います。数々のアップデートを遂げている中で、特に印象的だったことをお話いただけますでしょうか。

今泉氏(以下、敬称略) Google 検索のスタート地点は「検索ワードを入れるとWebページの情報が返ってくる」というサービスでした。日本でサービスを開始して20年が経ちましたが、Google 検索は3つの方向性で進化を遂げています。

ひとつはWebサイト以外のさまざまな情報を検索結果として返す「ユニバーサルサーチ」です。たとえば「パンジー」と検索すると、花の画像も表示されますよね。ユニバーサルサーチは画像、ビデオ、マップ、ニュースなど、いろいろな検索結果を取り入れて、検索の利便性を大きく向上させました。

次が「モバイル」の波です。この10年くらいで世界的にスマートフォンなどの携帯端末での利用が進み、検索の使われ方も大きく変化しています。Googleではユーザーの使い方に合わせてアップデートを続け、新しい環境に合ったユーザー体験を提供できるように努めています。

3つ目はここ数年大きく動いている、「AI」による進化です。AIと呼ばれているテクノロジーは、検索エンジンを「より深く理解できる」ものへと進化させつつあります。今の検索エンジンは、キーワードをいくつか入れたら検索結果が返ってきますが、「なんで空は青いの?」といった、自然な話し言葉でも、ユーザーの意図を読み取って答えを返せるようになってきており、日々進化しています。

―― モバイルによる変化というと、スマホの登場が大きなきっかけではないかと想像するのですが、Google 検索はいつごろからモバイル対応が始まり、どう変わっていったのでしょうか?

今泉 モバイル化に対する技術開発は、スマホが主役になる少し前から始まりました。私がそのとき携わったのはフィーチャーフォン、いわゆるガラケー向けのモバイル検索機能の開発で、当時の検索の世界はパソコン向けの「大きなWeb」と、ドコモのiモードのようなフィーチャーフォン向けの「小さなWeb」がそれぞれ存在していました。

それからスマホが登場するのですが、衝撃的だったのは小さな画面で大きなWebに簡単にアクセスできたことです。初期のiPhoneやAndroidに触れたときは「手のひらに収まるデスクトップコンピューターができた」と驚きましたね。当時は「スマホが主流になれば、モバイル向けのWeb検索は不要になるのかな」と思ったものです。

ですが、そんな単純な話ではありませんでした。モバイルでアクセスしたときと、デスクトップやラップトップでアクセスしたときでは、Webサイトの“振る舞い”が違うことに気づいたのです。

スマホ対応は東京発のプロジェクト

―― “振る舞い”が違うというのは、どういうことでしょうか?

今泉 たとえばとあるピザ屋さんのWebサイトでは、検索結果にメニューページが表示されていました。しかし、このページをスマホで開くと「m.○○ピザ.com」といった、モバイル版のトップページに自動で遷移する設定になっていました。ユーザーは、期待していた検索結果とは関係ないトップページに連れて行かれてしまいます。

スマホでパソコンと同じWebサイトが表示されないならば、Google 検索もパソコン版とスマホ版で作り分けないといけません。そこでモバイル検索チームでは2010~2011年頃に、スマホ版のWebページを収集する「Google ボット」を作って、スマホ用サイトを理解するところから始めました。

このモバイル版のGoogle ボットの作成は、当時の東京のGoogle 検索チームが主導したプロジェクトでした。

―― スマホ対応は東京発のプロジェクトだったということですか?

今泉 はい。それには理由がありまして、ひとつは当時、日本の携帯は世界の最先端にいたためです。フィーチャーフォンの時代には、日本ではiモードやEZwebのようなモバイルインターネットがあり、世界の中でもユーザーが多い国でした。そのため、モバイルWebの市場が大きく、詳しいエンジニアも多く存在していたので、東京のGoogle 検索チームは、モバイル対応に特化できていました。

2つ目の理由は、スマホ時代に移行しつつある中で、やはり日本のユーザーがスマホを使う割合が高いというデータがあったことです。そういう市場の方が、スマホで新しいサービスを試しやすいという理由もあり、モバイル検索は日本チームが主導することになりました。

―― スマホ向けに特化した検索エンジンを開発したら、スマホとパソコンでまったく別の検索結果が表示されることになりそうですが、実際はどうなんでしょうか?

今泉 最終的にはそうはなりませんでした。過去にはスマホとパソコン向けの検索結果を分けてみるという検討もしましたが、現在は同一のインデックスを元に、スマホとパソコンでそれぞれ適した出し方をする方向に落ち着きました。

理由は、Google 検索のようなロボット型検索エンジンが持つインデックスは、膨大なデータ容量が必要となるからです。スマホ向けとパソコン向けでそれぞれインデックスを作成してメンテナンスするのは、やはり現実的ではありません。

その後、スマホの普及が加速したことで、Webの世界は大きく変化しました。Google 検索を使うユーザーも、大半はスマホなどのモバイルデバイスからアクセスするようになっています。

ユーザーはいつでも検索し、今この瞬間を調べることが多くなった

―― もっとも使われるデバイスがパソコンからスマホに変わったことで、どのような変化が起きたのでしょうか。

今泉 やはり「いつでも使える」というのがモバイルの一番の特徴だと思います。

どんなWebサービスでも利用パターンには「波」があります。たとえば夜はみんな寝ているから使われないとか、週末よりも平日の方が活発に使われているとか。デスクトップ環境では、その波が大きく現れる傾向があります。

一方で、モバイル検索は外でも家でも、日曜でも月曜でも使われています。パソコンはデスクに座っていないと使えないのに対して、スマホはすぐ手に取れる。この差はサービスの使われ方に大きな違いとして現れます。

もうひとつ挙げるとすれば、スマホによって「今この瞬間」の情報を求められることが多くなりました。たとえば地震が起きたときに関連情報を調べる検索は、モバイル検索の利用が大きく伸びます。

新機能を考えるときの起点はユーザーの声とデータ

―― Google 検索では、近くのお店やWikipediaの情報など、検索ワードにあわせた情報をカード形式で表示できるようになっていますね。これはスマホでの使われ方に寄せた情報の出し方になっているのでしょうか。

今泉 一言で答えるなら「イエス」です。Google 検索に限らず、Googleが新しい機能を考えるときに、起点となる発想が2つあります。それは「ユーザーの声」と「データ」です。

ユーザーの声は、Googleが新しいサービスを開発するうえでもっとも重視する要素です。社内のメンバーで議論を重ねることもありますが、実際の生活者へのインタビューを通して新しい知見を得て、それをサービス開発につなげることはよくあります。

一方、データは、新たな機能がこのサービス上でどのように受け止められているか、反応を調べるうえで大切です。

実際の開発の流れとしては、まず検証用のプロトタイプを作ってみて、試験的に導入して、その結果を見て試行錯誤するという流れを取ります。

試しに作ってみて期待外れな反応だったり、予想よりも使われなかったりしてお蔵入りになるアイデアも多くあります。試行錯誤を重ねて、生き残ったダイヤの原石が、新たな機能やサービスとして広く展開されますね。

Google 検索はフェイクニュースや情報の分断化にどう向き合っているのか?

―― 検索の新機能で、ユニークなものはありますか。

今泉 スマホ向けではないですが、ここ1~2年で出てきたものだと、「ビデオの中から検索内容の答えを見つけて提案する機能」はユニークかつ便利なものですね。この機能は東京のGoogle 検索チームが主導して開発しました。

たとえば「正しいマスクのつけ方」を知りたいと思うことはありませんか? 新機能では、こういう質問に対する検索結果として、動画を表示します。さらに、提案される動画は、本当に見たい数十秒の部分、つまりマスクをつけている部分から再生されるようになっています。

この機能は、Web上の膨大な動画があふれるようになったことや、その膨大な動画の内容をAIで判断して理解できるようになったという技術の進歩があって、初めて実現できた機能です。

検索結果は、ユーザーが求めた質問に対してなるべく幅広く意見を返す

―― 進化を続けてきた一方で、フェイクニュースがここ数年で話題にのぼり、情報の分断化が進んでいた時期もあったように思います。Google 検索ではどのように対策しているのでしょうか。

今泉 とても重要な問いかけだと思います。まず、この問題は2つに切り分けて考えるべきでしょう。

ひとつは、シンプルに誤った情報があります。正しくない情報を掲載していたり、ミスリードを誘ったりするようなコンテンツです。事実に誤りがあるようなコンテンツは、出すべきではないと考えています。

Googleでは、ファクトチェック団体と協力し、明らかに事実と異なる内容は検証し、正しい情報を世の中に出していく活動をサポートしています。

もうひとつのタイプは、同じ事象を目にしても、人によって意見が分かれるようなテーマです。人が多様な意見を持つのは当然のことですし、その背景には政治的な思想や信条など、さまざまな要因があります。そうした意見や背景に対して、Googleが「正しい方」を一方的に決めることはありません。

Googleは、ユーザーが求めた質問に対して、なるべく幅広く、いろいろな意見を返せるように努めるべきだと考えています。

―― Google 検索がいろいろな意見を検索結果として出すようにしても、そもそもユーザーは自分の知っている言葉で、“知りたい情報しか”検索しないこともあると思います。いわゆるフィルターバブルとも呼ばれていますよね。こうした状態への対策などはできるのでしょうか?

今泉 それは正直、とても難しい問題です。ユーザーが特定の立場からの具体的な質問だけを検索したときに、まったく求めていない答えを返したとしても、そのユーザーにとっては価値のない情報で、無視されるだけで終わるかもしれません。

Googleにできるのは、特定のエコーチェンバーにとらわれてしまう前の段階で、より幅広い立場、意見を含んだ答えを提供することだと考えています。たとえば、ユーザーの検索ワードから質問の意図を解釈して、より幅広い答えが得られるような検索ワードを提案するといった取り組みはその具体例です。

あるいはGoogle ニュースなら、ユーザーが興味を持っているトピックに対して、なるべく幅広い視点からの話題を提供するようにしています。

―― 検索結果によって、いろいろな選択肢があることを示そうとしているということですね。

今泉 そうですね、それが目指すところですね。

位置情報などから求める粒度の情報を表示するのが、もっとも満足する結果になる

―― 少し個人的なことなのですが、Google 検索を使っている中で、検索結果が「現在地」に寄っていると感じるときがあります。たとえば海外の英語ニュースを検索したくても、国内が現在地だからか、検索結果に反映されにくいように思います。

うがった見方をすれば、こうしたパーソナライゼーションが情報の分断化を進めてしまうようにも見えるのですが、地域に基づくパーソナライゼーションについてはどのようにお考えでしょうか?

今泉 パーソナライゼーションについては、2つのタイプのご指摘をいただくことがあります。ひとつは「過去の検索結果や表示したWebサイトの内容によって、検索結果を大きく変えているのではないか」というご指摘。

もうひとつは今いただいたような「現在地などの情報でパーソナライゼーションしているのか」というご指摘です。

前者は言い換えると、ユーザーの個人的な属性や過去の利用動向に基づく検索結果の最適化、後者は現在位置などのより一般的な情報に基づく最適化と言えるでしょう。

情報の分断化を考えるうえで、深刻な影響をもたらしかねないのは前者です。後者の位置情報などに基づいたパーソナライゼーションは、確かに地域によって得られる情報が違うということになりますが、この違いは検索の利便性を高めるものでもあります。

たとえば、同じ英語圏でもイギリスで銀行のWebサイトにアクセスしたいときと、アメリカで探しているときでは、「銀行」という同じ検索キーワードであっても役に立つ検索結果は異なります。「全員同じ検索結果を」という発想で返すと、誰にとっても役に立たない結果になってしまいます。

要するにバランスが重要で、検索地の国やおおよその位置情報などから、求めている粒度の情報を返すのが、ユーザーがもっとも満足する結果になると考えています。

もっとも、日本の検索ユーザーが、米国のローカルな情報を求めているときに、検索が適切な結果を返せるとは限らないというご指摘は、Googleとして検索結果を返す仕組みの改善の余地があると考えています。現状では検索の言語を指定することはできますが、検索結果を求めるユーザーが選べるオプションを提供していくのは、常に検討するべき課題だと認識しています。

個人の行動によって検索結果の並びが変わることはほぼない

―― では、「過去の検索結果や表示したWebサイトの内容によって、検索結果を大きく変えているのではないか」という指摘についてはいかがでしょうか。

今泉 Googleの基本的な考え方とは「それがユーザーにとって役立つときのみ適用する」というものです。ですが現実として、そのようなケースはとても少ないです。

個人ごとの最適化ではなく、多くの人の行動を基に、サービスを便利に使うための仕組みを作ることはあります。代表的なものはGoogle 検索の「オートコンプリート」です。

検索バーで、「コロナ」と入力すると「コロナ 感染者数」や「コロナ ワクチン」といった候補が並びますよね。こういった検索の候補は、過去に多くのユーザーが検索したワードから選ばれています。多くの人が検索しているワードを先回りで表示することで、省力化というメリットが得られるからです。

―― たとえばそうしたときに出た検索結果の並び順は、個人の行動によって変えることなどはあるんでしょうか。

今泉 基本的にはありません。ブラウザーの「シークレットモード」を使うと個人の行動履歴の影響を排除した検索結果が出るので、見比べてもらうとわかりやすいと思います。

Google 検索は、検索している時間帯や、Googleが認識しているユーザーの大まかな位置情報などによっても、検索結果が変わることがあります。ユーザー個人の行動による変化よりも、そちらの変化の影響の方が、大きく出ることが多いでしょう。

MUMは言語/写真/動画などあらゆる情報が統合された検索モデル

―― 最後に、新しい検索モデル「MUM」についてお聞きします。開発者向けのイベント「Google I/O」でのデモンストレーションで、言語の壁を越えて、画像や動画といったコンテンツの種類も横断して検索している光景を見て衝撃を受けました。この技術の特徴を紹介していただけますでしょうか。

今泉 MUMは2021年のGoogle I/Oのデモンストレーションで初お披露目した技術ですね。Multi-task Unified Modelの略称で、「マム」と読んでいます。

2021年5月のGoogle I/Oでの披露はあくまでコンセプトの紹介でしたが、9月のSearch On ’21ではより実践的な、動くデモンストレーションを公開しました。

Google I/Oのデモでは、「前にアダムズ山に登ったことがあって、今年は富士山に登りたいと思っているのだけど、追加で装備を揃える必要ある?」という質問に対して、検索エンジンが山の標高といった情報や、登山者の服装を写した画像、SNSでの投稿などの情報を集約して、「秋の富士山は雨が降りやすいのでレインジャケットを用意した方が良い」と答える内容でした。

Search On ’21では、Google レンズでのデモンストレーションで、派手な柄のジャケットを写して「このジャケットと似た柄のスニーカー」という指定して検索するというデモンストレーションを披露しました。

MUMの最大の特徴は「マルチモーダル」な点です。英語や日本語といったあらゆる言語の情報、それに写真や動画、地図などあらゆる情報がひとつの巨大な検索モデルとして統合されています。デモのように、ユーザーが画像を出しつつ、テキストで質問しても、スムーズに結果を表示できるのがマルチモーダルならではのおもしろさです。

―― MUMによる新機能は、いつから、どのような形で使えるようになりますか?

今泉 Search On ’21でのプレゼンテーションでは、まだデモンストレーション段階だとしつつ「来年に向けて頑張る」といった表現を使っていましたね。実際に、そのぐらいから一部の機能が使えるようになると思います。

―― 日本ではいつ頃から利用できそうでしょうか?

今泉 現実問題として、各機能、提供地域ごとに展開時期は異なってくると考えています。MUMの検索モデル自体は、各地域で使われている言語に依らずサービス化しやすい仕組みとなっています。

一方で、信頼できるサービスとして提供するためには、実用環境でどのくらいきちんと動くか、テストを実施する必要があります。その段階で、なぜかこの言語では動かない、便利だと思えないといったことは、往々にしてあり得ることです。もちろん、すぐに提供されることもありますが、英語では見逃されていた課題が日本で提供しようとして気づくといったこともあるでしょう。ですので、楽しみに待っていてください。

【フォトギャラリー】※画像をタップすると閲覧できます。一部SNSからは閲覧できません。

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