アングル:四半期開示見直し、分かれる企業の受け止め 実効性に疑問符

アングル:四半期開示見直し、分かれる企業の受け止め 実効性に疑問符

新田裕貴

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[東京 18日 ロイター] - 岸田文雄首相が「新しい資本主義社会」の実現に向け、意欲を示す企業業績の四半期開示制度見直しについて、企業の受け止めは様々だ。開示作業の負担軽減を期待する声がある一方、投資家に情報開示姿勢の後退と受け止られかねないと憂慮する声も少なくない。関係者の間では、仮に制度が見直された場合も、大半の企業が開示を継続するとの見方が有力だ。

<かみ合わない政府と企業の主張>

首相は10月の所信表明演説で、企業のあり方について「株主だけではなく、従業員も、取引先も恩恵を受けられる『三方良し』の経営を行うことが重要」と持論を展開。四半期開示の見直しに向けて、環境整備を進める考えを示した。

首相と総裁選を戦った高市早苗自民党政調会長も、四半期開示は経営の短期志向を助長すると足並みを揃える。「短期的に利益をあげることだけを考えると、長期的な人材・研究開発投資ができない」との論旨だ。

一方、企業側に四半期開示制度が経営の短期志向につながるとの見解は多くない。トヨタ自動車の近健太・最高財務責任者(CFO)は「3カ月というより、10年、20年(先)を考えながらやっているのが普通の企業だ」と指摘。ただ、四半期開示で投資家側が近視眼的になる懸念があるとして、「3カ月の(業績の)上がり下がりで、中長期的な企業価値も上がる下がると誤解されたとすると、それは良いことではない」との考えを示した。

<四半期決算の集計作業、2期分を同時進行>

現行制度下では、上場企業は速やかに業績等を開示する決算短信と、資産状況の詳細等を含む決算報告書(有価証券報告書)をともに提出する義務がある。企業規模が大きくなれば、精査すべき項目も金額も莫大なものとなるため、3カ月ごとにやってくる作業の負担は小さくない。

事業会社の代表として、金融審議会や経済産業省の有識者会議に出席する日立製作所の河村芳彦・最高財務責任者(CFO)によると、同社の担当部署は第2・四半期の決算発表を行う10月、その最終準備を進めながら、翌年1月に予定している第3・四半期決算発表に向けた作業も行っているという。

河村氏は欧州の一部で開示が任意となったことに触れつつ、「日立のような(大きな)会社は資源があるので四半期開示ができているが、無理な会社もたくさんある」とし、「大所高所の議論が必要だが、欧州の状況を踏まえれば、日本もそういう方向に行くのではないか」と話す。

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日立同様に、開示見直しに前向きな企業もある。11月のロイター企業調査によると、「開示内容の簡素化が認められれば、リソースを別の方向に向けることは可能」(電機)、「翌月に販売がずれることがよくあるため、3カ月ごとの増減でコメントすることの意味が薄れがちである」(精密機器)などの意見が出た。

<任意でも継続か>

業績の四半期開示は、東京証券取引所が1999年に定めた自主ルールに基づいて上場企業に求めたのに続き、2008年に金融商品取引法が成立し、正式に法制化された。

四半期開示の是非は、これまでも議論が重ねられてきた。18年には、金融庁の金融審議会が検討を行ったが「任意化した場合、開示の後退と受け取られて、我が国の資本市場の競争力に影響を及ぼしかねない」として、改正には至らなかった経緯がある。

その結論から3年が経過、当時の議論を覆すような新たな視点は生まれていないが、開示制度見直しを掲げる岸田政権の誕生が状況を変えようとしている。

日本取引所グループ(JPX)の清田瞭最高経営責任者(CEO)は10月の記者会見で、四半期開示制度が廃止された場合も、上場企業の大半が開示を継続するとの見解を示した。「グローバルな投資家が株を持っている企業からすれば、自ら情報を削減することによって株主を遠ざけることはしない」としている。実際に、英国、フランスでは義務化が廃止された後も、過半数の企業が任意で四半期開示を続けている。

一方、決算短信と決算報告書(有価証券報告書)では記載内容に重複する点が多いとの指摘に関しては、解決に向けて議論すべきとの認識を示した。

金融庁の関係者は、四半期開示を見直しても、タイムリーディスクロージャーの充実などで企業の情報開示が後退したという印象を持たれないようにすることが重要だと指摘している。

<四半期開示の必要性>

市場関係者からは、情報の開示は継続的に行うべきとの意見が出ている。三井住友DSアセットマネジメントの藤原秀洋・シニアインベストメントオフィサーは、開示のフォーマット等は全社で統一する必要はないと考える一方、企業と投資家との間はコミュニケーションをいかに密にできるかが大切なことだとし、「そのためには、企業は開示を負担と考えずに継続すべき」と話している。

ある金融関係者からは、「融資の案件は足元の数字が一つの目線になるので、開示がない中での案件検討は実態的にハードルが上がる」との声も上がっている。

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