【PCゲーム極☆道】第110回『Arctico』 愛犬たちとともに極限の地に残されたものを追うサバイバルゲーム

【PCゲーム極☆道】第110回『Arctico』 愛犬たちとともに極限の地に残されたものを追うサバイバルゲーム

非常に寒い日が続いておりますが、お体など大丈夫でしょうか? 寒いだけならギリギリなんとかなりますが、場所によっては豪雪が大変なようで心配をしてしまいます。やはり寒さは人類の大きな障害ですね。冬は侮れません。

さて、人類がこの地球に誕生して以降ずっと障害として立ちはだかってきた寒さは、当たり前のごとくゲームにおいてもたびたび登場します。そろそろ10年を迎えるサバイバルゲーム(エアガンを撃ち合うほうではない)の隆盛もあいまって、もはやゲームの定番要素の一つと言えるでしょう。

ただ、システムとして寒さを描くだけがゲームの表現方法ではない。ということでみなさんのまだ知らないPCゲームの世界を紹介する「PCゲーム極☆道(きわめみち)」。今回は寒さの恐ろしさを間接的に描くサバイバルゲーム『Arctico』を紹介します。

『Arctico』は個人ゲーム開発者であるClaudio Norori氏とAntonio Vargas氏による作品で、2022年2月16日に発売されたゲームです。ただ本作は早期アクセスで開発されてきたゲームで、本当の発売開始はさらに以前、なんと2014年末に発売されたゲームとなります(当時のタイトルは『Eternal Winter』)。7年弱という長い長い年月を経て完成に至ったゲームなんです。これだけの長期開発というのはなかなかあることではありません。個人開発の資金繰りやモチベーションの問題もありますし、企業体でもこれだけの長期プロジェクトはなかなか難しいでしょう。いやはやすごい。

開発者のおふたりはニカラグアにいらっしゃったようで、中米という暖かい(いや、むしろ暑いぐらいか)国から出た寒さが際立つゲームというのもなかなかおもしろいところかもしれません。

主人公の恩師であるガルシア博士が亡くなった。彼女は偉大な科学者・発明家であり、世界に与えた影響は多い。彼女は極地での研究・実験を行っていたため、島には数々の研究資料が残されたままになっている。これが失われるのは人類の損失だ。

そこで君の出番だ。彼女の残した研究を取り戻すため、あなたは極地へとやってきたのだ。

そんな冒頭から始まるこのゲームで主人公は極地の島(おそらく南極がモチーフだろう)で恩師の研究資料を探しながら彼女の研究を引き継ぎ、この極地で生活をしていきます。島は銀世界が広がっており、見るからに寒い。それに主人公とその愛犬たち以外には鳥がぽつらぽつらと飛んでいる程度で、ほとんど動くものもありません。まさに限界を超えた先の極地という場所です。

先に説明した通り本作はいわゆるサバイバルゲームなので、さまざまなリソースや材料をこの島で調達し、生活をしなければなりません。

となれば当然必要なのはそう、採集です。生きていくための食料、研究設備を建築するための鉱石・クリスタル、それに研究の対象となるサンプルに至るまで主人公はこの極地でかき集めねばなりません。本作はオープンワールドを採用しており、舞台となる極地の島が大きなひとつのステージとして体験できます。島はそこそこの広さがあり、歩いて採集して回るのはとてもできるものではありません。

そこで重要なのが本作のアイコニックな要素でもある犬ぞりです。この犬ぞりに乗ってこの広く真っ白な世界を探索し、必要な素材を集めていきます。歩いてだと1時間はかかる道のりも、犬たちの力を借りれば数十分! 彼らの存在は極地には欠かせません。ちなみに犬の名前を4匹それぞれ付けることができるのもいいですね。アニメーションは簡素ながら、撫でることができるのも好印象。

もちろんそりを引く犬たちにもご飯が必要ゆえ、食料の調達は急務です。食料を揃え、島をくまなく回り素材を集め設備を強化していきましょう。

ただ、本作の特徴的なところはこのサバイバル要素がめちゃくちゃ簡単なところです。非常に寒そうな本作ですが、なんとびっくり寒さはシステムとして存在しません。体温管理をして命をつないでいく……というほかのサバイバルゲームでよくあるプレイは本作では必要ありません。それだけでも「え? そうなの?」と驚いてしまう簡単さです。

しかし本作の簡単さはそれにとどまらず、なんと空腹度が切れても別にゲームオーバーになりません。満腹度は主人公・犬ともに存在するものの、0になっても死にはせず、主人公の場合は移動速度が遅くなる、犬の場合は犬ぞりに乗れなくなるだけとデメリットも非常に小さくなっています。満腹度が0のまま放置しても特に問題ありませんし、犬は拠点で自動生成される水を与えると満腹度を少し回復させられるので、食料調達ポイントぐらいまでならゲージゼロからでも移動が可能です。もはや「サバイバル……っぽいかな?」ぐらいしかサバイバルゲーム要素はありません。

【PCゲーム極☆道】第110回『Arctico』 愛犬たちとともに極限の地に残されたものを追うサバイバルゲーム

ただ、ゲージがなくなったら死ぬようにするだけですから、この簡単さは当然狙ってのものでしょう。

本作があくせくとストレスなくできるゲームだからこそ、この極地の風景を気楽な気持ちで楽しむことができます。何もない一面の銀世界は非常に美しいですし、アンビエントな音楽もプレイヤーの心を落ち着かせます。過酷なサバイバルゲームとは逆の、落ち着いた癒し系のゲームと言えます。その魅力を感じてもらおうとしてか、本作はゲーム画面にUIを配置していません。マップも空腹度もすべて主人公が持つタブレットで確認する仕様となっています。ゲームの見た目にかなりこだわった大胆な仕様です。

それに本作はまだ仕掛けがあります。本作は確かに簡単で、逆に死ぬほうが難しいゲームです。ですが、寒さの厳しさ、辛さをしっかりと描こうと工夫がなされています。

というのもこの島には数々の漂着物や、放置された建造物が残されています。はるか昔に漂着した難破船の残骸、不時着した飛行機、廃棄された研究施設、誰かが仲間を弔った墓。これらは全てこの過酷な環境の極地で道半ばで倒れた誰かの残したモノです。元の場所へ帰りたかった。研究を成し遂げたかった。でも、それをこの島の過酷な環境が許さなかった。そんな道半ばがこの島にはこれでもかと溢れています。

残されたモノには必ずもともとの持ち主の手記が残されており、彼らの思いをうかがい知ることができます。ゲームのグラフィックでは描かれていないものの、手記の横に亡骸が転がっているのは確実だろうというものも登場し、かなりヘビーな内容です。

本作では、この残されたモノを必ず巡らなくてはいけないシステムとなっているのが大きなポイントなんですよ! そもそも、主人公の目的は恩師であるガルシア博士の残したモノを見つけ出すことです。となれば当然主人公は残されたモノを調査する必要があります。

ゲーム的にも調査することに価値があるようにできており、残された研究施設には彼女の残した設計図が隠されており、これを見つけることでプレイヤーもより有利にゲームを進められるようになっています。

例えば、本作では採集した素材・サンプルを拠点に持ち帰り、拠点で貯めた電力とかけ合わせ建築リソースやお金と交換する研究データに変換していくことが基本サイクルとなります。電力はソーラーパネルで充電して貯めますが、当然夜には貯められません。ですが、探索を進めると夜も充電できる風力タービンが建築可能になる……といった具合です。

また研究施設でない残されたモノであっても中に鉱石やお金、食料を元となる種子などリソースが残されており、これを集めるだけでもかなり有利になってきます。また、残置物の中に設置された棚や机などを見つけると、それを自分の拠点に建造できるようになるデコレーション要素もこの残されたモノ巡りで充実してくるのです。

つまりプレイヤーは否応なく、残されたモノを見て回る必要がある。そしてそこに残されたメッセージをみて、この極地で志半ばで倒れた思いに触れていく。いかにこの極地が寒く、苦しい場所かを残されたメッセージから感じ取っていくという構造なんですね。

もちろん真っ白な世界の遠くにぽつんと見える何かを調査してみたいと思うのもゲーマーごころというもの。望遠鏡をのぞき、先に見える残されたモノへ出発していく。本作はこの調査を主体とさせ、その先に待つフレーバーテキストで寒さの厳しさ・辛さを描いているわけです。

何もない美しい銀世界が、この残されたモノの哀愁をより高めてくれています。もの悲しさ、わびしさこそが、開発者が8年かけて作り上げた本作の醍醐味なのです。癒し系なゲームプレイングではあるものの、なかなかに重い!

さすがに8年の開発期間が災いしてゲームシステムが古くなってしまっている部分もありますし、システムとフレーバーを切り離したためにお金稼ぎを始めると島を巡る理由がなくなってこのゲームの良さから離れてしまうところももったいない部分です。それにサバイバルゲームを求め手に取るとがっかりする仕様のゲームでもあります。なので、万人に勧められるゲームでは決してありません。しかし、刺さる人にはがっつり刺さるゲームに仕上がっています。

残されたモノばかりの極地。ご想像の通り、恩師であるガルシア博士の残した手記もまた、この地には残されています。なにもかもが凍り付く極地の過酷さを感じたい人は、ぜひ遊んでみてください。8年かけて作られた極地の重さを体感しましょう。