「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
Macに搭載するプロセッサをIntel設計から独自設計へと切り替えると昨年6月に表明したApple。2年をかけて移行する計画の中間地点となる2021年10月19日に新型MacBook Proが登場し、新しいSoCのM1 ProおよびM1 Maxが同時発表された。
長年、パソコン向けプロセッサを取材してきた立場からすると、なかなか思い切って高性能に振ったSoCであることに驚いているが、一方でとても合理的で好評なM1を実に素直に拡張していると思う。
ハイエンド製品を含めたゲーミングPC、そしてノート型とは名ばかりの巨大なモバイルワークステーションなどに匹敵する性能であり、その上で常識的なサイズと長時間のバッテリー駆動を実現している。
しかし、あまりにスゴいスペックが並び、よく見るとCPU、GPUのコア数にも違いがある。さらにはウェブページの情報からはわかりにくいが、M1 ProとM1 MaxはGPUコア数やメモリ接続チャネル数以外にも違いがある。ProResおよびHEVC/H.264を扱う動画処理回路であるメディアエンジンが、M1 Proでは1セットに対してM1 Maxでは2セット搭載(M1にメディアエンジンは非搭載)されているのだ。
その結果、選択肢が多くなり「どの製品を選べば良いかわからない」という方もいるだろう。
ということで、製品レビューはまだ少し先になるが、搭載するSoCの視点から「どのMacBookを選べばいいのだろうか?」という疑問に対するヒントをまとめていこうと思う。
M1とM1 Pro / M1 Maxの違いは?
M1とM1 Pro / M1 Maxの違いは、もちろんCPUやGPUの数なのだが、SoCの性能はコアの数だけで決まるわけではない。
これらのSoCにはNeural EngineやISPなど、得意ジャンルの異なる処理回路が混在しているが、それらの処理回路が可能な限り”待つことなく”スムースに動作する必要がある。
たとえばM1のCPUは高性能コアが4個、高効率コアが4個で構成される。それに対して、M1 Pro / M1 Maxはそれぞれ8個と2個。当然、全体が処理できる容量は増えるが、高性能なコアがより多く同時に動くには、処理時に参照するメモリを滞りなく読み書きできなければならない。
しかもAppleのSoCは、超高速のメモリを多種のプロセッサで共有し、対象のデータを移動させることなく次々に処理することで高性能を引き出している。そのため、処理能力が高い処理コアが増えれば、その分、メモリアクセスの帯域幅も拡がらないと拡張した意味がない。
M1がメモリにLPDDR4x-4266を採用しているのに対し、M1 ProおよびM1 MaxがLPDDR5-6400を(おそらく)採用しているのはこういった理由だ。M1のメモリ帯域幅は毎秒68.2GBだが、M1 Proでは毎秒100GBx2チャネルで毎秒200GB、M1 Maxでは4チャネルのインターフェイスを搭載しているので毎秒400GBまでメモリ帯域幅が拡がっている。
つまり、それだけ多くの処理コア(CPUだけではなくGPUやNeural Engine、ISP、メディアエンジンも含む)が同時に行える処理の上限が引き上げられているのだ。
GPUなど専用処理回路を外付けにしているとメモリ転送などのオーバーヘッドも出てしまうが、同じメモリ上ならば帯域幅を拡大するとストレートに処理上限も引き上がるのが共有メモリの良いところ。
ビックリするとほど大規模なSoCになったのは、DRAM以外のすべてをひとつのチップに収めたためであり、その見返りとしてモンスター級の性能を手に入れたのだ。
高精細・高品位のビデオへの対応度
Macの場合、あまり高性能を要求されるゲームなどがないので、3Dグラフィックスと言ってもリアルタイムの3Dゲームというより、ゲーム製作のための3Dモデリング、あるは映画など映像作品向けのCG製作などにが主な用途になるだろう。
それらも重要なアプリケーションだが、M1 Pro / M1 Maxが主に目的としているのは、やはり高精細・高品位のビデオデータの処理だ。
前述したように、M1には搭載されていないメディアエンジンが搭載されているM1 Pro / M1 Maxだが、このこのエンジンはM1 Proのダイ写真では上部中央あたりのCPUコアのさらに右側のところに見える。同じ回路パターンはM1 Maxの下部にも配置されており、それなりに大きな規模の回路だとわかるだろう。
この処理回路があるおかげで、M1 Maxでは8KのProRes RAWを7ストリーム再生できる。
……と、これではどのぐらいスゴいのか想像できないかもしれないが、Mac Proの上位モデルにAfterburnerという22万円もするアクセラレータボードを装着しても、6ストリームしか再生できない。それを超えるデータスループットである、と言えば伝わるだろうか。
ともあれ、これだけの高性能を引き出せているのは、1つのチップに必要な回路をまとめ、広帯域幅のメモリを接続しているからこそなのだが、一方でメディアアクセラレータの中でもプロ用フォーマットであるProResを扱うユーザーは限られているだろう。
どうしてもCPUやGPUというところに目が行きがちだが、こうしたプロ向けの動画処理に特化した回路に資源を割り振っていることを考えるに、M1 ProおよびM1 Maxは、いずれも高い処理スループットを要求するメディアクリエイター向けと断言していい。
とりわけGPU性能とビデオ処理性能を最大化したいユーザーならばM1 Max、4K動画程度ならばおそらくM1 Proで充分という結論になると思う。
あらためて認識するM1のコスパの高さ
さて、ここで現実に大きく引き戻して申し訳ないが、夢のような高性能を引き出したM1 Pro、M1 Maxだが、この2つのチップは従来ならば、より大きなシステムを構築する際に追加していったチップをひとつにまとめたものとも言える。
現在のMacを構成しているのはSoCであって、個別のCPUやGPUではない。以前ならばボード単位で拡張していた要素を、DRAMも含めてひとつのスレート(小さな基板)にまとめている。
SoC単位で考えるならば、M1を基本中の基本として考え、その上で強力なGPUが欲しいならばM1 Pro、さらなるパフォーマンスを求めるならM1 Maxを、オプションボードのように考える方が選びやすいように思う。
言い換えれば、そうした高品位のメディアクリエイションに無関係ならM1で充分なのだ。
実際CPU構成にしても、M1のCPUはノートPCとしては最高クラス。GPUに関しては動画の書き出しなどの際にもう少し高速になってくれると嬉しいが、それでもモバイルコンピュータとしては充分に高性能だ。
それでいて価格は14インチモデルに対して10万円ぐらいの差があるのだから、M1のコストパフォーマンスをあらためて認識せざるを得ない。ちなみにProResを扱わないのであれば、M1にもHEVCアクセラレータは搭載されている。
また、Neural Engineに関してはすべて同じものが搭載されている。M1 Pro / M1 MaxではCoreMLを通じた機械学習処理のスループットがM1に比べ向上しているが、これはCPUやGPU性能の向上がもたらしているもので、Neural Engineそのものに変化はない。
MacBook Proの14インチモデルは登場が噂されてからの期間が長く、この噂のためにMacBook Airに手を出せなかった人もいると思うが、ここまで商品の指向性が異なると「自分にはMacBook Airの方が適している」と割り切れる人も多いのではないだろうか。
むしろ手を出しにくくなったと思ってしまうパターン
さて、ここからは少し邪推を交えながら。
一方で、新型MacBook Proの新しいディスプレイに魅力を感じたという方は、逆に手を出しにくくなったと感じるかもしれない。
Liquid Retina XDRディスプレイは、全白で1000nitsの明るさに加え、iPad Pro 12.9インチモデルを超える最大1600nitsのピーク輝度、そしてローカルディミング制御。間違いなく高品位であることはiPad Proの例からも明らかで、このディスプレイのために新型MacBook Proが欲しいという方もいるはず。
ここで邪推してしまうのが、M1をスタート地点にしたプロセッサが「Max(最上)」まで来たということは、Mac向け独自SoCが「二周目」に入る前兆とも捕らえられる。つまり、A14 Bionic世代と基本的なビルディングブロックが共通な一周目が終わり、新しいサイクルに突入してもおかしくはない、というものだ。
それにハードウェアの基本デザインが前世代と同じまま、M1搭載MacBook AirにLiquid Retina XDRディスプレイやFacetime HD(1080p)カメラが搭載されればいいのにという願望を持つ人も少なくないと思う。
それがAirなのか、あるいはProの下位モデル(従来の2 Thunderboltモデル)なのかは判断が分かれるところだが、最新のディスプレイとカメラを内蔵した"普通の人のためのMacBook"が遠くないうちに出そうな気もする。
個人的にはこのパターンにハマっているというのが正直なところだ。とはいえ、現時点で選ぶのであれば、やはりM1搭載MacBook AirがベストバイなMacBookだと思う。
ところで最後に蛇足ではあるが、付属ACアダプタについてひとつ。新型MacBook Proには、省電力と言われる割に大きなACアダプタが付属しているというツイートを見かけた。
たとえば16インチモデルには140WのACアダプタが同梱されている。これは新型MacBook Proに急速充電機能が付与され、バッテリー残量がゼロの状態から30分で50%まで充電できるようになったから。充電速度を高めるために大電流を必要とするためで、常に消費電力が大きいわけではない。あくまでも急速充電のための余力なのである。
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