「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
芸術や文化を学べる社交のオープンスペース(画像:グーグル)。
米国カリフォルニア州サンノゼ市議会は2021年5月25日、グーグルが提案する「ダウンタウン複合用途開発計画(通称、ダウンタウン・ウエスト計画)」を全会一致で承認した。計画では、公共交通の駅直近に東京ドーム7個分、約32haの敷地内に、オフィス、住宅、店舗、ホテル、公園などが建設される新時代の公共交通志向型都市開発(TOD)だ。【画像】車線の用途が変幻自在 「ダイナミックレーン」の活用例 敷地には、2万人の従業員を収容できるオフィススペース(約6.7ha)、4000戸の住宅(うち、アフォーダブル〈手頃〉な住宅を1000戸)、ショップやレストラン(約4.6ha)、公園やオープンスペース(約6ha)、ホテルや短期宿泊施設などを計画している。同社キャンパスの中でも最大級の規模だ。 全体で約10億ドル(約1140億円)の投資計画であり、職業訓練、ホームレス支援など地域貢献のために約1.5億ドル(約170億円)のコミュニティ安定化基金の創設も含まれているという。市は2014年に街の玄関口となるディリドン駅エリア計画(DSAP)を策定しており、2019年からはグーグルの提案との調整を進め、官民連携による行政計画として2021年5月25日に承認している点も興味深い。 日本の都市開発計画と大きく異なる点は、都市開発の計画書だけではなく、交通需要マネジメントや、近隣交通および駐車場利用とモニタリングの計画書も盛り込まれている点であろう。地区全体には、デザインに関するガイドラインも策定されており、都市開発や交通計画はこのガイドラインに準拠する必要がある。 早ければ2022年から開発が始まり、10年かけて3段階で都市がアップデートされていく計画だ。地区のガイドラインは475ページにも及ぶが、ここではモビリティに関する特徴的な計画を見ていくことにしよう。
次世代の動く街路空間のコンセプト(画像:グーグル)。
ライトレールの駅を降り立てば、目の前にはグーグル社も入居するヒューマンスケールの街が広がり、オフィスや住宅、公園などを結ぶ歩行者動線へと導かれる。街なかの人の移動はゼロカーボンを目指し、徒歩や自転車、公共交通の割合を計65%とする野心的な計画だ。現状このエリアのマイカー利用率は6割を超えていることを考えると、その目標の意味が分かるだろう。そのため、4000戸の住宅に対して駐車場上限は2360台、商業や従業員、来客用には4800台の駐車場しか設けない計画だ。IT企業が都市開発を通して人々の意識や行動変容を促し、カーボンフリー社会を先導していくものとなっている。 日常的な生活は、徒歩や自転車で済ませられるように、車道とは分離した専用空間を確保し、周辺エリアとも結ばれ、調和した設計となっている。健康増進や地域コミュニティの形成としても、これら歩行者や自転車ネットワークが強く意識され計画されている。 新たな都市開発により生じる自動車交通に対しては、エリア全体で静穏が保たれるよう配慮されるとともに、速度を抑制する様々な装置や交通状態のモニタリングなどにより、事故のないビジョンゼロの精神が盛り込まれている。 また、カナダのトロントでは実現できなかったダイナミックレーンが盛り込まれている点も興味深い。道路を走る機能だけではなく、時間帯やシチュエーションに応じて車線を柔軟に活用するというアイデアであり、地区内の道路の断面構成に「DL」として空間が確保されている。 グーグルはエリアの居住者向けに、自動車以外の多様な移動の選択を支援するインセンティブ施策を用意し、従業員向けにも啓発を行い、クルマの“賢い使い方”を促進していくプログラムを準備している。例えば地区周辺の従業員にはカープールサービスを用意し、スマホなどで従業員同士をマッチングすることで一人乗りマイカー通勤を抑制する計画だ。トロントではできなかったグーグルによるMaaSが、サンノゼでお披露目される日も近いだろう。 従業員だけではなく、居住者や来訪者を含めた地域のウェルビーイング(幸せや健康)を高めていくグーグルの挑戦は、わが国の郊外部での新しい都市開発として、また、カーボンフリー社会のスマートシティ戦略、オフィス戦略としても、目が離せない注目の取り組みだ。
牧村和彦(計量計画研究所理事)
最終更新:Merkmal