「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
小さな躯体に秘められた最新技術。
ここ数年、Apple(アップル)はiPadという製品を通じてタブレット端末がいかにノート型パソコンの代替品になり得るかを力説してきました。
iPadならマウス・トラックパッド・キーボードなどをBluetooth接続して使えますよ。iPadOSなら、複数のアプリを併用しながらマルチタスクできちゃいますよー、と。
だからといってiPadがノート型パソコンを凌駕する日はまだまだ遠いのですが(ファイル管理システムひとつを取ってみても使い勝手にはかなりの差が…)、最新のiPadはこれまでにないほどMacに近づいています。
そんでもって、今回の製品ラインアップにはiPad miniが再登場しました。
あまりの小ささに、これまでのminiにはまったく心惹かれなかった私。仕事をするにはノート型パソコンを使いますし、電子書籍を読むにはKindleを。家でごろごろしながら、あるいは旅行中にテレビやウェブを見るには、パソコンとKindleの中間ぐらいのサイズのタブレットを使ってきました。
そんな私がAppleの真新しいiPad miniを初めて見たときの印象は「ちっちゃいiPad Airだ!」。「かわいい!」とも思いました。ディスプレイサイズは8.3インチで、ポケッタブルって言えるほど小さくないと個人的には思うんですが、それでも10.9インチのiPad Air、12.9インチのiPad Proよりはずっと軽くて持ち運びやすいことは確かです。
そこで、ふとこんな疑問に思い当たりました。このiPad miniは一体なんのために作られたんだろう?
昨今のスマートフォン巨大化に伴い6.7インチのiPhone 13 Pro Maxなんかも出てるわけですし、それってiPad miniと比べたら1.5インチ小さいだけなんですよね。Samsung(サムソン)のGalaxy Z Fold 3みたいな巨大折りたたみスマホなんて、パカッと開くとディスプレイが7.6インチにまで拡大しますし。
でも、折りたたみスマホってまだまだ一般的には受け入れられていない感じです。おそらく値段と耐久性への懸念が関連しているのではないかと。だとすると、ほとんどの人は最新版iPhone 13 Pro Maxよりも小さいディスプレイの機種を使い続けているわけですよね。iPhone SEやiPhone 8のディスプレイサイズはいずれも4.7インチです。今私が使っているiPhone 12 Proだって6.1インチですから、新しいiPad miniに比べたら断然小さいわけです。
…とかいろいろ考えながらiPad miniを一週間使い続けてみた感想は「これ、買いだわ」。iPadとして求められるもの以外のなんでもなかったっていうシンプルな理由から、大好きになりました。そもそも、これを使っている間は仕事やらなくちゃっていうプレッシャーから完全に解放されるのが最高!
Apple iPad Mini (2021)
これは何?:デザインが一新されたApple史上最小のiPad。価格:499ドル(日本国内価格5万9800円)〜。好きなところ:美しい新デザイン。軽くて持ち運びやすさバツグン。ディスプレイのサイズは読書とゲームに最適。パワフルなパフォーマンス。バッテリー寿命が頼もしく、5Gでもつながる。好きじゃないところ:ディスプレイが小さいゆえにマルチタスク機能を使えない。
新しいiPad miniは、2019年にデビューした第5世代iPad miniとは似ても似つかないデバイスです。あちらはお値段400ドル(およそ4万4400円)にしてプロセッサはA12 Bionic、ホームボタン付きの分厚いノッチに縁取られたディスプレイは7.9インチ。廉価版iPadのニオイをぷんぷん漂わせていました。
その一方で、新しい第6世代iPad miniはミニチュア化されたiPad Airと見紛うほどにデザインが一新されていて、薄さ6.3mm、大きさ 8.3インチの高解像度ディスプレイを誇っています。599ドル(日本国内価格6万9080円)のAirと同じく側面はフラットで、背面はマットなアルミ仕様に仕上がっています。
縦長に持つと右上、または横長に持つと左上に位置しているトップボタンにはTouch IDセンサーが搭載されており、指紋認証できます。使い方はiPad Airと同じで、最初はちょっと手こずるものの慣れてしまえば早いし便利。ノッチはあることはあるものの、全世代モデルのものほど目障りになりませんし、Airのものとほぼ同一です。
iPad AirとiPad miniの類似点はどちらも12メガピクセルのメインカメラを搭載しています。ただし、iPad miniはさらにiPad Pro(2021)シリーズにも匹敵する超広角フロントカメラ(有効視野は122度)を搭載していて、新しいセンターフレーム機能にも対応しています。試しにiPad miniを縦方向に持って歩き回りながらFaceTimeアプリを使ってみたところ、なかなかいいかんじでした。
とはいえ、やはりiPad Proをキッチンカウンターに横向きに置いてビデオチャットするほうがしっくりくるかな。ちなみにiPad Airにはこの新しい超広角フロントカメラもセンターフレーム機能も備わっていません。
iPad miniのプロセッサはAppleのA15 Bionicで、iPad AirのA14 Bionicより新しくなっています。A15といえばiPhone 13 ProとPro Maxにも搭載されているチップで、6コアCPU、5コアGPU、それに16コアNeural Engineで構成されています。
私たちが行なったベンチマークテストでは、Airよりも高いパフォーマンスが見られました。さらに、第5世代miniと比べると第6世代miniはCPUの動作が40%も速く、GPUが80%も速くなっています。
miniはついにLightningケーブルを卒業し、USB-Cに対応しました。これでめでたくいろんな周辺機器につなげられるってもんです。Apple Pencilは第1世代から第2世代対応になりました。ペンシルはiPad miniの側面にマグネットで取りつけられるので、収納には困りません。
それと、5Gに対応しているセルラーモデルもあります(ただし6GHz以下の周波数帯しか使えないので、メチャクチャ速いってわけでもなさそうですけど)。
このようにスペック的に見てみると、A15 Bionicチップ搭載、USB-C接続、5G対応、超広角フロントカメラ、第2世代Apple Pencilへの対応…とくれば、iPad miniは小さなお仕事用タブレットなのかも? と思ってしまいそうですが、違うんです。それよりもっといいんです。
タブレット端末は年々大きさもスペックもグレードアップしてきています。その流れを率先しているのはやはりAppleで、最新版のMacBook ProとiMacに搭載されているM1システムオンチップをiPad Proにも搭載した結果、タブレットとパソコンの見事なハイブリッドに仕上げてきました。iPad AirだってAppleのマジックキーボードと組み合わせれば仕事もサクサク捗ります。
しかしながら、iPad miniにパソコンの代用は務まりませんし、務めようともしてません。miniは電子書籍リーダー、メモ書き用のノート、軽快なゲーム機、またはどこにでも持っていけるスマートディスプレイにピッタリです。iPad miniは、ただのiPadなんです。iPad以上のことが求められていないからこそ、使い手を自由にしてくれるんです。
私はiPad miniを主に夜、就寝前にベッドでごろごろしながら使っています。ネットをあてもなくさまよったり、電子書籍をLibbyやKindleアプリ上で読んだり、YouTube動画やテレビ番組を視聴したり、次の日のやることリストを作成したりしています。途中で舟を漕いでiPad miniが顔に降ってきたとしても、ダメージはiPad Proよりかはだいぶ軽くて済みます。
iPad miniのディスプレイは電子書籍を読むのにピッタリなサイズで、もっと大きなiPadやもっと小さなiPhoneで読むよりもずっと自然な体験が得られます。7年前のKindle端末をいまだに持ち続けている理由はまさにここで、ディスプレイサイズがちょうどいいから。でも最近では充電すらままならなくなってきていたので、新しい電子書籍リーダーを買おうか、もっと汎用性の高いデバイスを買おうかどうか迷っていたところだったんですが、iPad miniがまさに後者ですね。
mini以前のiPadと同様、miniも携帯性に優れていて、しかも5GとeSIMに対応しているのでお出かけに最適です。つい先日なんかは、5G対応モデルのiPad miniをハンドバッグに忍ばせて、ちょっとしたドライブに出かけました。助手席で本を読んだり、Twitterを見たり、メールに返信したり、ちょこちょこいろんなタスクをこなせました。ほかにも、たとえば飛行機に搭乗する前にあらかじめNetflixのドラマや、Spotifyのプレイリスト、電子書籍なんかをダウンロードしておけば旅行中に楽しめそうです。
で、ここからが重要なポイント。iPad miniのディスプレイは本格的な仕事をこなすには小さすぎるんですが、そこがいいんです。
ほかのiPadモデルをレビューした際は米Gizmodoで使っているワークフローツール「Airtable」を立ち上げてたんですが、今回はそれさえもしませんでした。もし急ぎの仕事が舞い込んできたら、miniで対応できるか? もちろんできます。iPhoneでもやろうと思えばできちゃいますから。
でも、じゃあそれで味を占めて次回もminiで対応するかっていったら、おそらくしないでしょう。今書いているこの記事も、ほかのiPadをレビューしたときのようにそのままiPad上で書いてしまってもよかったんでしょうが、そんなやりづらいことはしませんでした。だからこそ、iPad miniは最高なんです。
第6世代以前のiPad miniの魅力は、主にその携帯性に限られていました。その利点は保持しつつも、今回のminiはただのちっちゃいiPadってだけじゃないんです。性能が飛躍的に上がっているんです。
なにせプロセッサにA15 Bionicチップを搭載している時点で第5世代のA12 Bionicチップの性能をはるかに上回っていますし、A14 Bionicを搭載した第4世代iPad Airのベンチマークにも匹敵します。Geekbench 5で総合的なシステム性能を測ってみたところ、miniのスコアは4610だったのに対し、Airは4264でした。GPU性能に関しては、Geekbench 5のMetalスコアはminiが13685でAirが12631でした(miniのGPUは5コアなのでそこが影響しているかも)。
Airが唯一miniに勝ったのは動画連続再生時間で、10時間40分に対して10時間5分。でもそれはそうですよね、Airのほうが躯体が大きい分だけ大きいバッテリーを積んでいるわけですから。
これだけ「iPad miniは仕事に向かない」って言っておきながら今さら…と思われるかもしれませんが、iPad miniにちょうどいいキーボードケースがあったらなって、ちょっとだけ思います。iPad AirやiPad ProならAppleのマジックキーボードとの相性もバッチリですし、もし万が一iPad miniを使ってほんのちょっと仕事をこなしちゃいたいなってときに便利ですよね?
Logicoolからクレードル付きのBluetoothキーボードが出てますが、キーボードケースの利便性までは行ってません。だからと言ってタブレット上の仮想キーボードをたたきながらメールを打つのはぜんぜん楽しくないんですよね。
それと、どうしてもiPad miniでマルチタスクしたいって人。残念ながら、ディスプレイが小さすぎてあまりおすすめできません。ほかのiPadであればSplit Viewを使って複数のアプリを同時に操作できますよね。たとえば旅行の計画を立てるためにブラウザを開きつつ、同時に友だちにお誘いメールを作成できちゃうわけですが、iPad miniだとSplit Viewを快適に使うためのディスプレイ面積が足りないんです。だからどうしてもアプリを行ったり来たりすることになっちゃうんですが、ほかのもっと大きなiPadとは使い方が違うだけなので慣れの問題なのかもしれません。
もしすでにiPad miniをお持ちなら、新しいiPad miniに買い替えるべきなのは明白です。あなたが愛する小さきiPadは、小さいままながらに性能的には飛躍的に進化していますし、デザインも新鮮にアップデートされています。
もしすでにお持ちのiPadがもっと大きなもの、たとえばProやAirだとしたら…、多分今miniを買うことはないと思います(もし小さくてかわいいiPadをご所望ならば、迷わずどうぞ!)。
もし巨大なスマートフォンをお持ちなら、おそらくminiは必要ないでしょう。新型iPad miniはすごくいい…すっごくいいんですけど、それでもお値段は5万5400円〜。前の世代からは100ドルぐらい値上げされています。もちろん、329ドル(日本国内価格3万9800円)からの第9世代iPadは、miniよりも大きなディスプレイをminiよりもお安いお値段で買えるのでお手頃なんですが、こちらはminiの革新的な機能の多くを備えていません。
もしタブレット端末にタブレット端末以外の機能性を求めていないのなら、iPad miniをおすすめします。電子書籍を読むのに便利で、お気に入りアプリをどこでもいつでも操作できる(インスタグラム以外)お手軽タブレット端末としては、最高に楽しいですよ。
Reference: Apple