「DXを進めた意識はなかった」日産レンタカーが、すごいアプリを作れたワケ

「DXを進めた意識はなかった」日産レンタカーが、すごいアプリを作れたワケ

本記事について

左からSun Asteriskの小林泰平代表取締役、日産カーレンタルソリューションの岡本智代表取締役

「DXを進めた意識はなかった」日産レンタカーが、すごいアプリを作れたワケ

約1500人のIT人材を抱え、そのうち1300人ほどをベトナムなどの海外エンジニアが占める──そんな異色の企業「Sun Asterisk」。企業のDXに携わり、事業のデジタル化を数多く手掛けてきた(参考:5年間でベトナム3位の人気企業に 1500人の多国籍IT集団はどのようにして生まれたのか)。そんな同社の小林泰平代表取締役がモデレーターとなり、有名企業のプロジェクト担当者と対談し、どのようにDXを実現したのかを探る。【画像】日産レンタカーが開発したアプリ 今回のゲストは「日産レンタカー」ブランドを展開する日産カーレンタルソリューションの代表取締役・岡本智氏だ。 レンタカーを利用する際、免許証の提示や書類の記入といった手続きが店頭で必要になる。それらをユーザーのデバイスで完結できるようにしたのが、2021年4月から提供している「日産レンタカー公式アプリ」だ。 予約から返却までの手続きをアプリで行えるほか、事前に登録した免許証やスマホアプリをクルマの鍵代わりにして、店員の付き添い不要(完全非対面)で直接乗車できる「セルフライドゴー」機能も搭載している。 デジタライゼーションの一例といえるが、システムの出発点はあくまで「顧客体験の向上」であり、その結果がDXだったという。アプリの開発背景や苦労話も交えながら、2人の対談を通して企業が行うデジタライゼーションのヒントを考えていく。

「DXを進めた意識はない」 開発のきっかけは?

小林: 日産レンタカー公式アプリは、どんな背景から開発がスタートしたんですか。岡本: 顧客体験の向上を目指したのが始まりでした。DXを進めた意識はなく、また今回、完全非対面で手続きを完結できるのがアプリの特徴ですが、コロナ禍になってこの形を模索したわけでもありません。 レンタカービジネスは、差別化が難しい業種です。扱う車種はどのブランドも差がなく、最後は値段勝負か顧客利便性に帰着します。その中で、顧客利便性を上げるために考えたのが、出発前の手続きをデジタル上でお客さまに行っていただく「セルフチェックイン」でした。小林: 確かにあの手続きがなくなるだけで、顧客側は待ち時間も軽減できるので顧客利便性は上がりますよね。従業員としても貸し出しのオペレーションが簡略化されることで楽になるので、双方にメリットがあると思います。岡本: そうですね。そこでまずは、ブラウザ上でセルフチェックインのシステムを開発した形です。小林: 最初からデジタルの活用やDXが念頭にあったわけではなく、顧客体験の向上を突き詰めた結果、そこに行き着いたわけですよね。この視点はとても大事だと思っていて、例えばネットショップ開設のプラットフォーム「BASE」も、小売りの方がもっと簡単にネットショップを開設できないかという純粋な問いから始まり、結果的にそれがDXになったのだと思います。 今回も同じですよね。DXは、得てしてそれ自体が主目的になりがちですが、シンプルにユーザーと向き合って、顧客体験を上げる方法から始まったお話は、大きなヒントになるはずです。岡本: 自分たちの仕事を一度抽象化して、必要なものといらないものを分けると、残すべき顧客体験や価値が見えてきます。レンタカーを借りるお客さまで、あの手続きをしたい方はほぼいないですよね。移動手段の確保がお客さまにとって最大の価値なので、それ以外の手続きは徹底して軽くした方が喜ばれます。小林: こうしてプロジェクトが始まり、私たちも携わらせていただいたのですが、最初はブラウザのみのサービスでアプリ開発は想定していませんでしたよね。岡本: はい。2種類のOSに対応し、頻繁なメジャーアップデートも必要になるので、コスト面で厳しいなと。ただ、ブラウザでは免許証の情報取得にハードルがあるなど、顧客体験向上に限界が出てきます。また、並行して「セルフライドゴー」のプロジェクトも進めていたのですが、これを実現するにもアプリが最適ということになり、ブラウザからアプリ開発へ舵を切りました。

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