wotopi - ウートピ 誰かを「分かったつもり」になるのが一番怖い…注目の映画監督・枝優花が考えていること

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乃木坂46の元メンバーで俳優の伊藤万理華さんが主演を務める短編映画『息をするように』が9月18日に公開されました。

両親の離婚をきっかけに東京から田舎の学校に転校してきた主人公のアキ。「普通」と「特別」の間で自身のアイデンティティに悩みながら、転校先で出会った学校の人気者・キイタの秘密に触れ、成長していく姿を描いています。好評を受け、10月以降からの公開劇場も増え続けています。

本作の監督を務めるのが、枝優花(えだ・ゆうか)監督(27)。2018年、23歳のときに初の長編作品『少女邂逅』が公開されると異例のヒットに。半年にも及ぶロングラン上映となり、香港国際映画祭・上海国際映画祭などにも正式出品されました。みずみずしくも痛々しい、10代の学生をリアルに描いた作品が特徴的です。

枝さんのSNSをのぞくと、日々、若者からと思われる質問が寄せられています。将来への不安、日々のつらかったことなど、作品とも通ずるリアルな声が溢(あふ)れています。若い世代から支持される枝さんの魅力は? 映画監督のほか、写真家としても活躍している枝さんにお話を伺いました。

『息をするように』メインビジュアル

仕方なく引き受けた監督役から…

——枝さんは学生時代から映画を撮っていたそうですね。映画を仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。

枝優花さん(以下、枝):実は最初からはっきりと映画監督になろうと決めていたわけではないんです。小学生の頃にお芝居を習い始めたのがこの業界につながった最初のきっかけでした。もともと映画が好きで、でも当時はどういうふうに映画に関わっていくのがいいのか分からなくて。たまたま東京からお芝居を教えてくれる先生が来るというのを聞いて、何か映画と関わるきっかけをつかむために、小学5年生くらいの時に習い始めました。田舎に住んでいたので、大人になるまで順当に待っていてはおそらく無理だと思って飛び込みました。

——その後はどのような経緯で作品を作るようになったのでしょうか?

枝:お芝居を習っている中で、自分にとってはあまり演じる側は面白くないな、と感じてしまったんです。スポットライトが当たっている人を近くで見ているほうが好きだ、と思いました。

その後、大学生の時に上京して、映画サークルに入りました。それで、みんなで作品を作っている時に、監督をやる予定だった人が撮影の1週間前にいなくなっちゃったんですよね。空いた穴を誰が埋めるのか、3時間くらい話し合っても全然決まらなくて、早く家に帰りたかったので引き受けました。初めて監督をしたのは、その時でした。大学生になる頃には配給とか宣伝とか、会社に勤めて映画に関わる道を考えていたので、その人が逃げてくれなかったら、絶対に映画監督にはなっていなかったと思います(笑)。

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友達の代わりだった? 映画に救われた思い出

——偶然ですね! ちなみに、幼い頃から映画と関わりたかったとのことですが、なぜ映画に強く惹かれていたのでしょうか?

枝:幼い頃に友達がいなかったからかもしれないです。近所の子たちと違う保育園に通っていたので、あまり友達と遊ぶこともなかったんです。自分の寂しい気持ちとか孤独をごまかしてくれるものとして、友達の代わりのように映画を見ていたと思います。きっと、幼い頃にもっと友達と話していたら、お花屋さんになりたいだとか野球選手になりたいだとか私も思ったかもしれません。でも、映画以外の選択肢を知らなかったんです。

それに、私の中で映画と家族の思い出が結びついているのも大きいかもしれません。父親が映画好きなんですけど、忙しくてあまり家にはいない人だったんです。でも、年に数回一緒に映画館に映画を見にいくことがあって、記憶の中の特別な思い出になっているんだと思います。

映画自体も映画の仕事も非日常的で、非現実的な側面が大きいですが、大人になるにつれて、私は映画を仕事にしたいと夢見ているんだなと気づきました。一握りの人しかなれないと言われる業界なので、映画を仕事にする覚悟があるのか、自分を納得させる必要もありましたが……。

——どのようにご自身を納得させていったのですか?

枝:映画が好きだと言っているけれど本当にそうなのだろうか、狭き門に挑戦する覚悟があるのかとかいろいろ悩みました。でも、過去を振り返っていくうちに、中学生くらいの時に頑張っても友達とうまくいかなかった時期に映画にすごく救われたことを思い出したんです。その作品のメイキングを見て、中学生が主人公の話なんですけど、大人が撮っているのが新鮮でした。こんなにたくさんの大人が関わっているんだって。この世界に入ったら、自分自身も、自分みたいな人も救われるかもしれないと感じて、映画業界に関わりたいと思うようになりました。

「分かったつもり」が一番怖い

——新作も含め、枝さんの作品には10代が登場するものが多い印象です。

枝:私はいま27歳で、当たり前ですが30歳の経験は知りません。もちろん50歳も、60歳も分からない。演出したり脚本書いたりするときは「分かる」感覚に誠実に向き合うことが大事だと思っています。分かったつもりで作ってしまうのがあまり好きではなくて。となると、唯一時間がたって分かっている感覚が学生時代というのが大きいですね。

——「分かったつもり」にならないために意識されていることはありますか?

枝:10代を描く作品以外でも当てはまりますが、誰かのために何かを作ろうと思いすぎるのはやめています。「若い子のために」「みんなのために」というのは難しいです。もちろんクライアントワークだったらターゲット層を考えることもありますが、そうでないものは、漠然と「人のために作る」という意識は持たないようにしています。

——それはなぜでしょうか?

枝:おそらく、そういう作品はどこかで上から目線になってしまっていたり、感覚として「分かってなさ」が伝わってしまうと思います。「この人、なんで分かったつもりになってるんだろう。全然分かってないじゃん」と、私自身も感じることがよくあるので。同じ問題に当たったこともない人が「その気持ち分かるよ、つらいよね、でもこうやったら……」と言ってくるのって嫌じゃないですか。そういうことをしないように、誰かのために作品を作らないようにしています。

■映画情報タイトル:『息をするように』公開日:全国順次公開中監督:枝優花出演:伊藤万理華、小野寺晃良

(聞き手:白鳥菜都)