「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
賃貸でスマートホームを目指すと、どんどんスマートではなくなってくるという罠。(イラスト:いのうえさきこ) ※画像クリックで拡大
「スマートホーム」と聞いて、みなさんにはどんなイメージが浮かぶでしょうか。
私がイメージするのはこんな感じです。家電を中心にあらゆるものがつながって、面倒な家事はすべてオートメーション。きれいな空気と快適な温度、明るさが保たれた室内では、電力も無駄なくコントロールされ、防犯体制も万全です。住人はただそこでゴロゴロしているだけで、清潔で快適で安心で健康的な暮らしができる……。
もちろん今はまだ道半ばですが、将来的にはきっと我が家にも、私のような面倒くさがりにとってまさに天国のような住環境が整うはず。そう信じてきたのですが、実は今ちょっと挫折しそうになっています。
そのきっかけはこれ。「スマートロック」です。
筆者宅ではCANDY HOUSEの「セサミ」というスマートロックを使用しています。もともと鍵が旧式でサムターンの形状が特殊なため、電動でサムターンを回すしくみのスマートロックは使えないと諦めていました。
しかしCANDY HOUSEでは、様々な鍵の形状にあわせて1つ1つアダプターを提供する、実に細やかなサービスを提供してくれています。おかげで我が家にもスマートロックを導入することができました。
「セサミ」はシンプルで使いやすい機能と、高いコストパフォーマンスを備えたスマートロックです。スマートフォンやスマートウォッチの専用アプリやNFCタグを使った施錠/解錠のほか、音声アシスタントにも対応。解錠から一定時間経過後のオートロック、Bluetoothと位置情報を組み合わせた手ぶら解錠、Wi-Fi接続による遠隔操作など、スマートロックに求められる機能を広く備えています。また動作も軽快でストレスがありません。
そう。スマートロックには、一切何の問題もないのです。なのになぜ、こんな姿になってしまっているのかというと、それは筆者宅が賃貸住宅だからにほかなりません。
賃貸住宅なので、退去時には原状回復ができるようにしておく必要があります。多少のDIYくらいは問題ないというケースもあるかもしれませんが、筆者にはドアにネジ止めをするのは、その範疇を超えているように思えます。そこで付属の両面テープを使って取り付けていたのですが、ドアが木製のため粘着力が持続せず、あるとき剥がれ落ちてしまいました。
最悪だったのはその落ちたタイミング。朝のゴミ出しのためにTシャツと短パン、サンダル姿で玄関を出て、オートロックが閉まった瞬間、ドアの向こう側からガシャーンという大きな音が聞こえたのです。
ほぼ寝起きだったので、頭はボサボサ。おまけにうかつにも、メガネさえかけていませんでした。腕のApple Watchが鍵代わりでしたが、メガネがないのでアプリを起動するのも一苦労。しかもどんなにApple Watchの画面をタップしても、ドアの向こうからはモーター音がむなしく響くばかりです。外れてしまった今となっては、スマートロックがどんなにウインウイン頑張っても、サムターンが回ることは2度とありません。
ドラえもんでいえば、「コエカタマリン」で固められた「絶望」の2文字が、頭の上から降ってきたかのような衝撃。一瞬にして、目の前が真っ暗になりました。
不幸中の幸いにも、筆者のApple WatchはGPS+セルラーモデルで、iPhoneが近くになくても電話をかけることができます。合鍵を持っている友人をたたき起こし、鍵を開けてもらうことができたので、そのまま永久に締め出しを食らうという最悪の事態は回避できたのですが、ちょっとトラウマになるレベルの恐怖体験だったのは言うまでもありません。
「セサミ」のQ&Aには、取り付け位置に凹凸がある場合や筆者宅のような木製の場合、用途に応じた両面テープに変えるというアドバイスも紹介されています。しかしその参考として紹介されていた超強力な両面テープのAmazon販売ページには、「剥がすことを想定された用途でのご使用はお控えください」という、ネジ止め以上に取り返しがつかなくなりそうな説明があり、踏み切ることができません。
結果、予備の両面テープで再度取り付けをし、さらに上からテープで補強するという今のスタイルとなりました。筆者宅のドアは外開きのため、宅配便やUber Eatsの配達員の方にギョッとされたりもしていますが、良い補強策が見つかるまで当面はこれでしのぐしかないと思ってます。
鍵を開けてくれた友人には、ちくりと「全然スマートじゃないね」と言われてしまったのですが、その言葉をきっかけに思い出したことがあります。
あれは今から15年以上前のこと。まだIoTではなく「ネット家電」なんて呼ばれていましたが、当時からすでにインターネットにつながる家電はありました。
ただしメーカーごとにしくみが違い、その便利さをすべて享受するには、家の家電をまるごと同一メーカーのものに買い替える必要がありました。とあるネット家電シリーズの発表会の席で、編集者とその総額を計算し、「確かに便利だけど買い替えるとなるとものすごい出費。ラクするために稼がないといけないなんて、本末転倒だよね……」なんて、話していました。
あれから月日は流れ、今や「スマートリモコン」のようなデバイスがあれば、わざわざ家電を買い替えなくても、家にあるものをそのままAmazon AlexaやGoogleアシスタントのような共通のプラットフォームにつなぐことができます。
さらに、異なるWebサービスを連係させる「IFTTT」のようなしくみを介せば、異なるメーカーの家電を連携することも難しいことではなくなってきました。おかげで筆者宅でも、ベッドサイドの電球から、エアコン、テレビ、扇風機、空気清浄機、リビングの照明まで、大きな初期投資をすることなくスマート化できています。
ちなみに「スマートリモコン」というのは、クラウド経由で操作できる学習リモコン機能を持ったデバイスのこと。筆者宅では「Nature Remo」という製品を使って、エアコン、テレビ、扇風機など複数の家電をまとめて操作できるようにしています。
赤外線がそれぞれの家電に届く位置に配置するのがポイントなのですが、これもやはりネジ止めができないという理由で、やむを得ず窓のサン(桟)に置いています。
つながる家電が少しずつ増えて、自分では「憧れのスマートホームに近づいてきた」なんて思ったりもしていたのですが、友人の言葉によくよく家の中を見渡してみると、スマートロックはこんな見た目だし、スマートリモコンの設置場所も不安定、スマートスピーカーだって配線が剥き出し……と、全然スマートじゃなかった!
真にスマートな「スマートホーム」を実現するには、最初からドアにスマートロックを採用したり、壁にリモコンや配線を組み込んだりできる、「マイホーム」を建てるところから始めなければいけないのかも。
便利でラクな暮らしのためには結局、がむしゃらに働いて稼ぐしかないのかと思ったら、また「絶望」の2文字が降ってきそうです……が、仕方がないので見た目のスマートさにはひとまず目をつぶることにして、引き続き賃貸住宅でもできるスマートホーム道を突き進みたいと思います。
テックライター、エディター。インターネット黎明期よりWebディレクションやインターネット関連のフリーペーパー、情報誌の立ち上げに携わる。以降パソコン、携帯電話、スマートフォンからウェアラブルデバイス、IoT機器まで、身近なデジタルガジェットと、それら通じて利用できる様々なサービス、アプリケーション、および関連ビジネスを中心に取材・執筆活動を続けている。
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