Alexa、殺人事件の法廷で“証言”して:スマートスピーカーで記録される音声の捜査利用が加速

Alexa、殺人事件の法廷で“証言”して:スマートスピーカーで記録される音声の捜査利用が加速

シルヴィア・ガルヴァの自宅に警官が駆けつけたのは、2019年7月のことだった。32歳のガルヴァの家にいた友人が、ガルヴァと彼女の夫で43歳のアダム・クレスポとの激しい口論を偶然耳にしたと通報してきたからだ。ガルヴァとクレスポは、マイアミから20マイル(約32km)離れたハランデールビーチで同居していた。

警官が到着した時点でガルヴァは死んでおり、ベッドの支柱の先端に付いている長さ12インチ(約30.5cm)の刃で胸を貫かれていた。警察はクレスポがガルヴァをベッドから引きずり出そうとしたものと見ている。ガルヴァはベッドの支柱を握りしめて抵抗したが、支柱のとがった先端が折れた拍子に、どうやら命を奪われたらしいというのだ。

警察はクレスポを第2級殺人の容疑で逮捕した。クレスポは無罪を主張し、65,000ドル(約685万円)の保釈金で釈放され、裁判を待っている。そして逮捕の数カ月後、クレスポの弁護士はクレスポを弁護するために驚くべき証拠を提出した。それは2台の「Amazon Echo」に録音された音声だった。

「多くのインタヴューを受け、『誰かを殺人事件で有罪と認定するためにAlexaの録音が使われる最初のケースになりかねないと、わかっているのですか?』と聞かれました」と、クレスポの弁護士クリストファー・オトゥールは語る。「ところが、わたしはまったく逆で、これは誰かの容疑を晴らして無実だと示すためにアマゾンのAlexaの録音が使われる最初のケースになりうると考えたのです」

Alexa、殺人事件の法廷で“証言”して:スマートスピーカーで記録される音声の捜査利用が加速

警官や検察官がスマートホーム機器やスマートスピーカーのデータを集める場合、通常そのデータは容疑者に不利な証拠として用いられる。ハランデールビーチ警察がクレスポのスマートスピーカーを法廷へ提出させる令状を請求したのは、ガルヴァの友人が耳にしたという口論の録音を聞けるかもしれないからだった。

警察が「Alexaのデータ」を求める件数は急増

この事件は、警察の捜査におけるスマートホーム機器やウェアラブル機器の役割の増大を示している。

アーカンソー州ベントンヴィルの警察が2016年、ある男性の死亡に関連して「Amazon Echo」のデータ提出を要求した。この種の要求としては最初の例だと考えられている。

当初アマゾンはこの要求を拒否しようとしたが、のちにデータを提出した。殺人容疑で逮捕された被疑者は不起訴となったものの、それ以来スマートスピーカーやスマートホーム機器、ウェアラブル機器のデータは多様な事件に影響を与えている。

今年8月に入ってアマゾンが発表したところによると、利用者のデータを提出してほしいという警察からの要求が今年の上半期で3,000件以上あり、そのうち約2,000件に応じたという。こうした要求はアマゾンが初めて情報開示した2016年の同じ時期と比べると72パーセントの増加で、過去1年間だけと比べても24パーセントもの増加である。

アマゾンは、警察が捜索中の証拠に関する詳細なデータは出していない。ノースジョージア大学文芸学部刑事司法学科の学科長ダグラス・オアによると、警察はスマートホーム機器のデータをスマートフォンのデータと同様に、日常的に捜索しているという。スマートフォンのデータからほかの機器の捜査の必要性が生じる場合が多いことから、警官は捜査を続ける際にスマートフォン以外の機器のデータを調べるのだという。