「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
目次を閉じる
スマートフォンやPCから操作できたり、気温や日差しに応じて自動制御されたりする家電品や照明は、スマートホーム技術の導入で実現できる。インターネット経由でアクセス可能なデバイスを使うと、たとえば帰宅する直前にエアコンを自動的に起動する、といった快適な生活も送れる。
関連する人気記事そんなスマートホームには、標準規格と呼べる技術がない。広く使われている主要ベンダーの独自技術が複数存在するだけだ。そうした技術のあいだには互換性がないため、あるスマート家電はこのスマートスピーカーから操作できないとか、操作可能になるまでの設定で苦労するとかいった問題にぶつかる。これは、スマートホームの普及を阻む障害といえる。
業界標準の通信規格やAPIが定められ、多くのベンダーが対応すれば、この問題は解決する。ただし、どのベンダーも自社技術で囲い込み、大きなシェアを獲得したいと考えるので、実際には難しい。
これに対して、各技術間の障壁をなくし、スマートホーム製品の相互接続性を確保しようとする動きが現れた。ワーキンググループ「Project Connected Home over IP」が発足したのだ。参加メンバーには、IoTデバイスなど向け通信規格の標準化団体Zigbee Allianceに加え、なんとアマゾン、グーグル、アップルといったスマートホーム市場で大きな力を持つ企業まで名を連ねている。これは、スマートホーム関連技術の標準化を一気に進める勢力になりそうだ。
それでは、Project Connected Home over IPについてみていこう。
Zigbee Allianceのプレスリリースによると、Project Connected Home over IPの活動目的は、オープンなスマートホームデバイス向け標準仕様の開発。さまざまなスマートホーム関連デバイスやアプリ、クラウドサービスなどを相互にやり取りさせるためのルールを、インターネット用プロトコルのIP上で定めようとしている。
こうした標準仕様が完成したら、対応しているデバイスやサービスは簡単に接続でき、連携させられるだろう。メーカーは特定のベンダーに縛られずに済み、事業を展開しやすくなる。消費者は、互換性の確認という面倒な手間をかけずにスマートホームを構築できるようになる。グーグルは、互換性確保による接続のしやすさを「USBのような『プラグ&プレイ』」に例えた。
スマートホーム市場にとって、これが大きなメリットであることは間違いない。
標準仕様の策定は、オープンソース方式で進める。また、完成した仕様はロイヤリティフリーで提供されるそうなので、スマートホーム用のデバイスやサービスを提供する際に助かるはずだ。
さらに、最初からセキュリティに配慮して仕様を策定するという。セキュリティに対する甘さが指摘されるスマートホームなので、この弱点が解消されるなら導入したい、と考える層に訴求でき、普及に弾みがつく。
詳細な策定スケジュールは公開されていないが、2020年遅くには仕様の草案をリリースし、初期段階の実装例を出したいとしている。
具体的な応用範囲は、CNBCの報道によると、まず火災報知機、一酸化炭素(CO)センサー、スマートドア、スマートロック、セキュリティシステム、電気のコンセント、窓の日よけ、空調など、ホームセキュリティを対象とする。その後、ほかの分野や商業ソリューションへ範囲を広げていく計画らしい。
ワーキンググループは、実用化済みの既存技術を出発点にして、必要な改良を施して仕様を策定していく。
既存技術としては、すでに市場で実績のあるアマゾン、グーグル、アップル、Zigbee Allianceのスマートホーム向け技術を使う予定だという。アマゾンの「Alexa」、グーグルの「Assistant」、アップルの「Siri」といった音声アシスタント機能との互換性も当然確保する方向だ。さらに、アマゾンの「Alexa Smart Home」、グーグルの「Weave」、アップルの「HomeKit」や、Zigbee Allianceの「Dotdot」という既存システムで使われているデータモデルも活用するとしている。
ただ、「Zigbee 3.0/Pro」プロトコルは使わず、IPをベースとする。そして、無線LAN(Wi-Fi)やBluetooth Low Energy(BLE)、モバイルネットワークを介して通信できるようにする。ベンダー独自のネットワーク技術として、グーグルの低消費電力なメッシュネットプロトコル「Thread」にも言及している。
出典:グーグル / Project Connected Home over IP
Project Connected Home over IPには、アマゾン、グーグル、アップルなど錚々(そうそう)たる企業が参加する。そのほかにも、スマート家電を提供しているイケア(IKEA)、シグニファイ(Signify、旧社名はPhilips Lighting)、サムスン・スマートシングス(Samsung SmartThings)、ルグラン(Legrand)、スマート家電向け半導体を手がけるNXPセミコンダクターズ(NXP Semiconductors、かつてのPhilips Semiconductors)やシュナイダーエレクトリック(Schneider Electric)などの名前が挙げられた。
プレスリリースなどで具体的には触れられていないが、これらメンバー企業の既存技術も仕様に取り入れられる可能性がある。
出典:Project Connected Home over IP / Project Connected Home over IP
Project Connected Home over IPに主力企業が集結したのは、スマートホーム市場に対する期待が大きいからだ。
IDCの調査によると、2019年におけるスマートホーム関連デバイスの世界出荷台数は8億1,500万台弱で、前年に比べ23.5%増えるという。2023年まで年間平均成長率(CAGR)14.4%のペースで増加し、2023年には13億9,000万台を超えると予測した。
また、消費者のスマートホーム関連ハードウェアやサービス、導入サービスに対する支出額は、ストラテジー・アナリティクスの調査結果だと、2019年が1,030億ドル(約11兆2,682億円)、2023年が1,570億ドル(約17兆1,758億円)、その間のCAGRは11%とされた。
出典:ストラテジー・アナリティクス / Global Smart Home Market to Surpass $100 Billion in 2019
このように、スマートホーム市場は今後急速に拡大すると考えられている。
Project Connected Home over IPの参加企業やベースとする技術をみていくと、すでにスマートホーム市場で大きなシェアを獲得している主要ベンダーが、自社の既存技術を業界標準化し、先行している現状の基盤を固めることが目的だと思われる。
気になる点は、日本企業の名前が見当たらないことだ。標準仕様は既存技術をベースに策定されるので、発足時点で参加していない日本企業は、たとえ先んじている技術を持っていても仕様へ反映させにくい。日本のスマートホーム機器や関連サービスを開発する企業は、Project Connected Home over IPメンバーのプラットフォーマーに従うことになるかもしれない。日本の住宅事情にそぐわない仕様が決まってしまった場合、国内スマートホーム市場の拡大すら見込めなくなる。
Project Connected Home over IPの動きに遅れないよう情報収集するだけでなく、早い段階で活動に参加するなどの対応が必要だろう。
スマートホーム身近に、早期のセキュリティ対策を - 国内市場は25年にも4兆円超え生活を便利にするスマートホームがますます身近になってきた。関連デバイスの出荷台数は2023年に世界で16億台と、2...詳細を見る