EVsmartブログ電気自動車や急速充電器を快適に 首都高大黒PAでEV6台が同時充電可能な新型急速充電器が運用開始 人気記事 最近の投稿 カテゴリー

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高速道路の高出力複数台設置にマスコミも注目

トヨタの「EV本気宣言」が注目される中、首都高速道路に1台当たり90kW、6台合計で200kWの高出力で充電できるチャデモ規格の急速充電器が設置されました。新型急速充電器はV2X機器も手がけるニチコンと、日本のEV充電インフラ拡充を担うe-Mobility Powerが共同開発したもので、2020年度のグッドデザイン賞を受賞。事情通のEVユーザーの間では、社会実装が待ち望まれていた新型器です。

一般ユーザーへの運用開始を前に、14時からメディア向け発表会が開催されたので参加してきました。トヨタのおかげでEVへの注目度が高まっている影響でしょう。たくさんのテレビ局や大手新聞の記者の方などが参加していて、なんというか、マスコミもEVに注目しているな、というのが印象的でした。

【関連記事】大黒PAの新型急速充電器に一番乗りで使い勝手を検証してみた【不具合情報も確認】(2021年12月19日)

最大90kW、6台で200kWのカラクリは?

はたして、どんな充電器なのか。「6台で200kW」の仕組みや、満を持して登場した新型器ならではの工夫などを簡潔に紹介します。

車両充電台数と充電器最大出力(kW)の例
1台2台3台4台5台6台
909040202020
9080402020
80602020
806020
8040
80

①〜⑥までのEVが、順次急速充電を始め、時間経過=台数の増加とともに最大出力がどう変化していくかを例示した表です。この表を正しく理解するためには、少し基礎知識が必要でしょう。電気自動車(以下EV。急速充電可能なPHEVも含む)の急速充電最大出力は、車両側の性能や電池の状況で変動します。最大90kWといっても、今、日本国内で市販されているEVの多くは最大50kWまでしか受け入れることができません。また、50kWを超える高出力で充電できるEVであっても、電池温度などの条件で実際の受入出力は変動し、SOC(電池残量)がおおむね80%を超えて満充電に近くなるほどに、受け入れる出力は下降していきます。

さらに、搭載するバッテリー容量が小さいPHEVは、そもそも最大20kW程度でしか急速充電できない車種が多いこともポイントです。

たとえば、高出力を受け入れ可能な①のEVは、充電開始から一定時間は90kWの高出力で充電して、満充電が近づき出力が落ちてくると、その分の電力が後から到着して高出力を求めるEVに供給される、という仕組みです。

発表会では、これが「パワーシェアリング」という言葉で説明されていました。現時点で最大90kWで充電可能なEVの車種や台数はまだ少なく、6台が一斉に充電を開始する確率も低い。たとえば、90kW×6台の急速充電器を設置しようとすると540kWの電源を準備する必要があるものの、200kWのパワーシェアリングを活用すれば、コストミニマムで「高出力器複数台設置」が実現できる、ということです。

斬新なデザインの充電器部分は、車両とケーブルを繋ぐいわば「接続器」であって、系統電力を引き込んで充電器に電気を送る「電源器」は、6台が並んだエリアの奥に茶色いボックスで設置されていました。この仕組みは、テスラのスーパーチャージャーや、ポルシェのターボチャージャーも同じです。

今回の新型器の場合、この電源器の中に出力20kWの「電源ユニット(機能としてはAC-DCコンバーター)」が10個組み込まれていて、6台の接続器(つまり車両側)からの要求に応じて振り分ける仕組みになっているということでした。つまり、この急速充電器のハードウェア的な最大出力である90kWを発揮する際には、電源ユニット5個分=100kWのポテンシャルが供給されていることになります。

先に示した表は発表会で配布された資料を元にしています。たとえば、3台同時充電のケースで「40kW(電源ユニット2個)/80kW(4個)/80kW(4個)」と例示されていますが、後から充電を始めたのが20kWや50kWしか要求しないEVやPHEVだった場合は「20kW(1個)/50kW(3個)/90kW(5個)」となるなど、フレキシブルに対応してくれる、はずです。

詳細なケーススタディについて、今日は確認&検証しきれなかったので、おいおい確かめていきたいと思います。

高出力急速充電可能なEVの充電出力がどのように変動するかといったことは、およそ70kWで急速充電可能な日産リーフe+での検証記事などがあるので参考にしてみてください。

新型器ならではの工夫もいろいろ

e-Mobility Powerの四ツ柳社長インタビュー記事など、充電インフラ関連の記事では何度も繰り返しているように、高速道路SAPAへの高出力急速充電器複数台設置は今後のEV普及に向けて必須&火急の課題です。文字通り、満を持して登場した新型器。さすがに「おっ!」と思えるような工夫がされていました。

吊り下げ式のケーブルが使いやすい!

まず、ぱっと見で印象的なのが天空に向けて羽根を拡げたようなデザインです。ケーブルは上からの吊り下げ式になっていて、車両側の充電口の位置に応じて、拡げた羽根の先端部分のレールでケーブルの吊り下げ起点の位置を左右に移動することが可能です。駐車スペースに「前から入れる」か「バックで入れる」かは車種によって使い分ける必要がありますが、従来のように長いケーブルを引きずって回り込まなきゃいけない、なんてことはありません。また、ケーブルが地面の泥で汚れることがなく、女性など非力な方でも扱いやすいというメリットがあります。

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ケーブルの重さをあまり感じることなくプラグを差し込めて、手を汚すことなくケーブルを片付けられる(というか、片付けなくていい)のはすごく快適。今後、ニチコンはもちろん他メーカーの急速充電器もぜひ追随すべきデザインだと感じました。

タイカンでも安心な車止めの高さ

充電スペースに置かれた「車止め」の高さにも配慮されています。たとえば、ポルシェ タイカンはフロント左側のタイヤハウス付近に急速充電口があり前向き駐車することになるので、車止めが高いとチンスポが当たってしまう懸念があります。そこで、現状で最も低いと思われるタイカンに合わせて、ポルシェがターボチャージャーに設置した車止めの高さを参考にしたそうです。

ただし、EVレースなどをやっていて、極端に低いフロントスポイラーを装着しているオーナーの方は注意してくださいね。また後部左側に充電口があるテスラ車の場合、おおむねバックで入れることになるから問題ない、と言いたいところではありますが、一番手前側の充電器(接続器)は駐車スペースの横に配置されており、前から入れないとケーブルが届きません。レース仕様のモデル3でサードパーティ製の低いスポイラーなどを装着している方はご注意ください。

充電中は保護ポールのLEDが点滅

次に注目したいのが、駐車スペースと充電器に間に2本立っている衝突防止用のポールです。上部にLEDが埋め込まれていて、使用可能な状態の際には点灯。充電中は点滅します。これが、消えている時は故障や、ブーストモード(後述します)直後の冷却中など充電器が使用不可能な状態であることを示しています。

eMPの技術担当の方は「周囲が暗い時間なら、離れた場所からでも充電が終わっているかどうか、このLEDで確認できる」と説明してくださいました。こういう一工夫、実際にEVに乗ってないとそのありがたさは想像できないでしょう。eMPでは、四ツ柳社長や姉川会長をはじめ多くの社員の方々がEVユーザーと聞いています。ケーブルや車止めへの配慮も含め、EVのことをちゃんと知り、考えているからこその工夫だと感じます。

ただし、駐車スペースと充電器設置スペースの段差など、車椅子レーサーとして活躍する青木拓磨さんが指摘していたような、車椅子の方が使いにくいことへの配慮はまだ十分とは言えないように感じます。そのあたりは、今後へのさらなる課題、ということで。

操作パネルは人感センサーで起動

充電器の操作パネル。従来の急速充電器では一度パネルにタッチして起動させるものが多かったですが、今回の新型器には人感センサーが組み込まれていて、充電器に人が近づくとパネルが起動。スムーズに操作できます。

充電器本体から操作説明のステッカーが消えた!

充電器本体に、操作説明の細々としたステッカーなどがたくさん貼られているのも今までは当たり前でしたが、新型器の本体はスッキリ。ゲスト(ビジター)充電の方法など、細かな操作説明は充電器エリア手前のボードに集約して説明されています。

EVユーザーにとってはおなじみの充電カードがあれば操作はシンプル。パネルに表示される手順に従うだけで、スムーズに充電を開始できる、はずです。

日本でも、いよいよ本格的なEV普及時代が始まった

さらにこの新型器の評価すべき点は、今後、高出力対応車種が増えていくことに備えたアップデートが容易であるということです。

電源部と車両との接続器(充電器)が別々のパワーシェアリング方式。充電器のハードウェアは最大90kWであり、当面は200kWの電源で十分という判断ではあるのですが、日産アリアや、トヨタ bZ4X & スバル ソルテラなど高出力急速充電対応車が増え、90kW充電のニーズが高まれば、たとえば電源器をさらに一基増設して6台で400kWをパワーシェアリングするシステムにアップデートする、といったことが可能です。

さらに、90kWで充電できる車両が数少ない現状に合わせて、今回の新型器のケーブルは最大50kW、つまり電圧400Vとして125A仕様=最大50kW仕様のケーブルが使われています。ここに90kW=225Aの電流を流すと加熱するので、「ブーストモード」という仕組みを導入。90kW相当の高出力電流が流れるのは15分程度に抑制されています。

これも、90kWで充電できる車両が増えてくれば、ケーブルを90kW仕様に交換すれば、ブーストモードを使うことなく、30分間通して最大90kW(50kWオーバー)で充電することが可能な施設にアップデートできるのです。

欧米では、150kWとか350kWといった超高出力急速充電をスタンダードにしようという動きもあります。でも、個人的に今までのEV経験を通じて「90kW、欲張っても150kWくらいで十分じゃない?」というのが実感です。400kWの電源をパワーシェアリングすれば、4台以上の高出力対応EVが同時に90kWで充電できるインフラになるわけなので、向こう10年くらい、つまり、この新型器の交換時期を迎えるくらいまでは実用的に問題はないでしょう。

想定を超えて、自動車メーカーが高出力急速充電対応のEVをどしどし発売して、この新型器で示したeMPのビジョンが追いつけなくなるのだとしたら、高性能なEVを売りまくる自動車メーカー自身が何らかの対応策を示すべき、だと思います。

全国の主要SAPAに新型器がどんどん設置されて欲しい

実は、今回の発表会には私がメルセデス・ベンツから最大100kW対応のEQAをお借りして駆けつけたほか、EVsmartブログ編集部として、新婚早々モデル3パフォーマンスを買ってしまったアユダンテ社員の石井さんと、Honda eを衝動買いしたフリーライターの篠原さんとともに参加。メディア向け発表会が終わり、15時からの一般向け開放とともに、利用者第1号として3台同時充電を検証してみた、というレポートをする算段でした。

でも、ここまでお読みいただいたように、「簡潔に紹介」といいつつ盛りだくさんになってますし、この上、検証レポートを重ねると読むのが辛い長さの記事になってしまうので、別記事(明日か明後日くらいには公開目標)にしたいと思います。大切な注意点の報告もありますので、ことにテスラ車やHonda eオーナーの方、また高出力対応EVオーナーの方はぜひチェックしてください。

いくつか、重要な注意点もあります

少しだけ注意点を先出ししておくと、まず、Honda eはこの新型器でまだ充電できません。あと、石井さんのテスラモデル3では、出力が10数kWしか出ませんでした。さらに、急速充電エリアは駐車スペースの最奥部にあり、待機スペースはないので、運悪く満車だとPAを出るしかなくなるので注意してください。詳しくは後日の検証レポートで説明します。

なにはともあれ、今後に期待!

四ツ柳社長の挨拶では、この新型器を「今後高速道路SAPAを中心に設置を進めていくほか、企業のEVフリート用充電設備としての活用も拡げたい」とのこと。ニチコンのウェブサイトを確認しても商品としては紹介されていないので、興味がある方はe-Mobility Powerに問い合わせてみてください。ちなみに四ツ柳社長をはじめ関係者の方々に「次はどこに設置されますか?」と尋ねてみましたが、「まだ言えない」ということでした。

なにはともあれ、待ち望んだ高速道路SAPAへの高出力器複数台設置が、記念すべき第一歩を踏み出したことに、祝福と賛辞を贈りたいと思います。そして、全国のNEXCOや高速道路設備関係者のみなさま、ぜひ前向きに、というか前のめりなペースで新型器設置を進めてくれるとチャデモEVユーザーはうれしいです。

(取材・文/寄本 好則)