「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
8月25日から9月22日にかけて、CNET Japan主催の「不動産テックオンラインカンファレンス2021 一歩先ゆくスマートな街・移動・暮らし」が開催された。本稿では、9月15日におこなわれた積水ハウス 業務役員 プラットフォームハウス推進部長の吉田裕明氏のセッション「プラットフォームハウス構想が目指す住宅の未来」の様子をお伝えする。
積水ハウス 業務役員 プラットフォームハウス推進部長の吉田裕明氏(画面左上)積水ハウスは2020年、創立60周年を迎えた。そのなかで前半の30年間は、耐震や耐火という「安心・安全」を守るためのシェルターとしての家を提供し、その後の30年間は「快適性」という観点で、断熱性能やバリアフリーなど快適な暮らしを提供してきた。「創業からの60年間は、ハウスメーカーとしてハードをしっかりと提供してきた」と吉田氏は話す。
これに対し2020年からは、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」とのグローバルビジョンのもと、「人生100年時代の幸せ」というコンセプトを掲げ、これまで培ってきた技術力を“幸せ”につなげていくという取り組みに挑戦しているという。その1つにあるのが、講演のタイトルにある「プラットフォームハウス構想」である。
積水ハウスのこれまでの歩みとこれからプラットフォームハウスとは、従来のハードウェアとしてのベーシックな家に、居住者が自由にサービスをインストールしていくという新しい家の形である。そこではまず、家で暮らす住人が人生100年時代を有意義に過ごすための構成要素として、活躍し続けるための「健康」、豊かに暮らすための「(人との)つながり」、新たな可能性を見出すための「学び」というキーワードを抽出、それぞれの要素を充実させることが“幸せ”につながると定義されている。
これらの幸せという無形資産を蓄積していくための手段として、IoTを活用して従来からの事業領域である「住環境のデータ」に加え、居住者の「ライフスタイルデータ」や「バイタルデータ」を捕捉。そしてそれらのデータを活用した、幸せにつながるようなサービスを構築、提供していく。
プラットフォームハウスの概念図今回のセッションでは、同構想における健康とつながりに属する部分が語られた。まず健康について、吉田氏は家庭内での急性疾患の状況に関するデータを紹介。脳卒中の年間発症者数は約29万人で、79%が家の中で発生。そのなかで脳梗塞は、家庭内での死亡者が推定1万5千人であり、死に至らなくても医療費や介護など家族の負担が大きくなり、経済負担は年間1100万円にのぼるという。ほかにも心疾患や溺死、転倒、転落を合わせると、年間に7万人が亡くなっているとのこと。
「家庭内の急性疾患対策の現状は手付かずといっていいほどの大きな課題。それらを社会全体のコストとしてみると、医療費、介護費、労働損失、企業の生産性低下を含めると約8兆7千億円にのぼる。そこにプラットフォームハウス構想が実現すれば、2割近い1兆6900億円のコスト削減につながる」(吉田氏)
家庭内急性疾患に関するコストとプラットフォームハウス構想実現時の削減効果もうひとつの課題は、そのコストに含まれない「隠れ介護問題」である。日本での要介護者数は、2000年から2018年の間で3倍に増え、今後もますます増える。現在、働きながら介護を担っているのは、就業者数の5分の1となる1300万人で、企業の役員や管理職の隠れ介護が徐々に増えている。それが社会課題であると同時に、会社を運営していく上でもリスクになっていると吉田氏は指摘する。
これに対し積水ハウスは、急性疾患に対する取り組みとして「在宅時急性疾患早期対応ネットワークHED-Net(In-Home Early Detection Network)」を開発。プラットフォームハウス構想の一環として、現在専用のラボにおける実証実験をするとともに、2020年からは新築の戸建てを購入した顧客による生活者参加型のパイロットプロジェクトも開始しているという。
HED-Netを導入した家では、宅内で非接触型センサーが居住者の心拍数と呼吸数を検知解析し、異常値を超えると通知が緊急通報センターに送られる。オペレーターが部屋に設置されたスピーカーから呼びかけ、返事がないと異常事態と判断し救急隊に出動を要請。救急隊が到着すると音声と映像で確認し、ドアを遠隔解除する。倒れている場所があらかじめわかっているので、病院への搬送に向けて素早い対応が可能となる。搬送した際は、施錠までしっかりと担う。
「脳梗塞対策は、早期発見と早期治療が基本。4時間半内でケアできれば治療ができ、このスキームがあればそれが可能になる。HED-Netを早期発見、早期治療のベースにしていきたい」(吉田氏)
HED-Netサービスの流れその際ハウスメーカーとしてのこだわりが、「今まで通りの暮らしをしてもらうこと」(吉田氏)である。そのため居住者のデータは、ウェアラブルではなく非接触型センサーで取得する。現在、異常を判断するためのアルゴリズムを開発しており、ラボにおいては寝返りを打った時や、春夏秋冬で異なる布団や衣類という遮蔽要因、扇風機やエアコンを使っている場合に振動や風を補足できるかなど、データを正確に取るための検証をしている。ほかにも生活者参加型プロジェクトでもデータを補足し、各家庭における1年間の生活スタイルの違いを踏まえてデータを分析しつつ、システムを運営しているという。
積水ハウスはHED-Netのほかにもう1つ、急性疾患になる前にどうケアしていくかという「慢性疾患等に対する予防・受診喚起への取り組み」を実施している。年々人々の健康への関心は高まり、徐々に行動に移ってはいるものの、実際は「面倒だから取り組めない」「病気の自覚症状がない」「生活習慣を改善するゆとりがない」などの継続阻害要因が多いと吉田氏は現状を説明する。そこに対して同社は、「家ならではのケアがしっかりできるように提案していく。慢性疾患に対しても、今まで通りの生活をしていただくことを前提にサービスを考えている」という。
具体的には、高血圧や糖尿病などの疾患を予防する行動変容につなげるために、「食や運動や睡眠などに対する提案」と、異常があった時に早期治療を可能とするため、「いかに医療機関への受診につなげていくか」という2点に取り組む。前者では、心拍や呼吸、血圧、体重、体脂肪などの日々生活者が取れる情報と、定期検診の情報を組み合わせて疾患リスクを判定。後者では異常の兆しを検知し、早期治療を促す。そのための2つのアルゴリズムを作って対応していくとのこと。
またその先には、家の中で取得した経時変化のバイタルデータを医療機関に提供し、受診時のデータと連携させて医療を高度化させていく構想となっている。
「急性疾患と慢性疾患の取り組みは、我々だけでは意義を出せない。まず、年間約1万戸供給している新築の戸建でサービスとして検証してから、グループで事業をしているリフォームや集合住宅、ホテルや医療介護施設へと展開する。それを将来的に街に広げていき、積水ハウス以外の住宅にもインフラとして採用してもらえるようにする。いかに社会的大義を果たしていくかを考え、プラットフォームハウス構想をインフラとして成立するサービスにしていく」(吉田氏)
プラットフォームハウス構想が目指す全体像同構想を実現するにあたっては、住設領域以外にも食や睡眠、運動、センシングやAIの活用などさまざまな取り組みをする必要がある。そこで吉田氏は、「我々はあくまでハウスメーカー。皆様の得意領域をミックスすることで、しっかりとアライアンスを組みながらプラットフォームハウス構想を実現していきたい」と視聴者に訴える。
プラットフォームハウスを実現するため、吉田氏は3つのポイントを挙げる。まずは、住み手と長年寄り添っていくために必要な「セキュリティの強化」。2つめは、時代に即した「サービスをインストールできる家」で、この部分では段階的にステップを踏んでサービスを進めていく。先述のHED-Netも、インストールされるサービスの1つである。
プラットフォームハウス構築のロードマップ色々なサービスがインストールされていくと、さまざまな顧客データが集まる。そこで3つめのポイントが、「住環境データとライフスタイルデータの蓄積」となる。「データをしっかり蓄積し、まず顧客にプラスαのサービスとしてお返しするとともに、ビッグデータとして市場にフィードバックする」(吉田氏)
インストールできるサービスの第1段階が、8月末にリリースした「PLATFORM HOUSE Touch」である。同サービスは、それぞれの家の図面をベースにした、「世界に1つだけしかないわが家だけのアプリケーション」(吉田氏)で、図面をもとにエアコンや照明などの遠隔操作と、窓や玄関の状態、家族の帰宅などを通知するホームセキュリティ、部屋の状態をセンサーや機器の操作履歴からモニタリングする機能を備えている。
PLATFORM HOUSE Touchのサービス内容PLATFORM HOUSE Touchアプリは家族全員で使うため、操作履歴を可視化することで家庭単位での暮らし方が見えてくる。現在先行利用されている事例では、操作ログをもとに家庭内の消灯時間をキーとして、リビングのエアコン停止、玄関錠のロック操作が連動していることを把握、消し忘れや締め忘れの操作を忘れた際にアラートを送るサービス提供につなげたケースもあり、こういった形で家庭ごとにパーソナライズした提案ができるとの見通しである。
「我々がこだわっているのは、生活シーンから設計するということ。そこは我々が唯一できる経験と発想の部分なので、このような形でサービス設計をしながら、お客様のライフスタイルにしっかり溶け込んでいけるサービスを提供していきたい」(吉田氏)
PLATFORM HOUSE Touchは、月額2200円のサブスク型で提供。サービスを利用するにあたっては、このほかにシャッターの電動化玄関を電気錠にするなどで実装費用がかかる。またHED-Netについては開始時期を含めて現時点では未定だが、「実装段階で100万円を超えないレベルで導入でき、月額数千円で提供できるように努力していく」(吉田氏)とのことである。