JAcom 【コロナ禍乗り越え 築こう人に優しい協同社会】JA鳥取中央・栗原隆政組合長に聞く「シン・地方創生総合戦略」2022年2月10日

JAcom 【コロナ禍乗り越え 築こう人に優しい協同社会】JA鳥取中央・栗原隆政組合長に聞く「シン・地方創生総合戦略」2022年2月10日

「中部農業みらい宣言」で定例の記者会見をする栗原組合長

――JAグループのめざす農業生産の拡大と農業者の所得増大へ向け、どのような取り組みをしていますか。

省力化で規模拡大

JA自己改革の取り組みとして2016年から始めた「地方創生総合戦略」で四つの柱を立て、農業生産基盤の整備を進めてきました。第1の柱が梨の新品種「新甘泉」の作付け拡大、第2がイチゴ団地の設置、第3がスイカの低コストハウスの増棟、そして第4が和牛繁殖牛の増頭です。この戦略が2020年度で終わり、四つの目標をほぼ達成しました。

この成果の上に2021年度から「シン・地方創生総合戦略」に取り組んでいます。その第1は梨の生産基盤強化です。労働力不足に対応するため、省力樹形の導入を進めています。また、いま梨は、若い世代に人気のある高糖度の「新甘泉」が中心ですが、鳥取県を代表する品種は何と言っても「二十世紀」です。今は糖度の高い品種が求められていますが、糖と酸のバランスのとれた「二十世紀」の需要は、これからも期待できます。ジョイント栽培や機械作業体系を確立し、省力化による面積の維持・拡大に努める方針です。

第2にブロッコリーの生産振興です。管内の琴浦町を中心に2020年の187haの作付けを25年までに500haに拡大する計画です。第3に鳥取県オリジナル品種の米「星空舞」の生産拡大です。20年の337haを5年で1000haに拡大します。量では有力な米産地にかなわないので、品質の向上に力を入れ、ブランド力のある産地を目指しています。第4に和牛子牛の増頭に取り組みます。肉牛は2017年の宮城全共で肉質日本一の実績があります。このブランド力を生かし、20年の1320頭を1650頭まで増やす計画を立てています。

――意欲的な産地づくり戦略だと思います。この目標を達成するには若手の農業者の確保が欠かせません。今も人手不足のなかで、どのように対応しますか。

農業関係の仕事をしたいという人には、JAとして積極的に支援しています。新規の就農希望者にはJAの子会社である農業生産法人で研修する仕組みがあります。そこでは2020年度までに18人の新規就農者が育っています。またJAでは就農のための相談会も開いています。

コロナ禍でいまは中断していますが、毎年大阪で相談会を開いています。しかし、まず地元で募集すべきだという意見が生産農家から出て、JAに農業人財紹介センターをつくりました。当初は選果場など共同利用施設の人手対策でしたが、次第に農業の生産現場の仕事が増えています。センターは3、4人の体制で選果場の仕事も含めて年間120~200人をあっせんしてきました。

一方、新しく農業を始めようという人も増えており、積極的に支援しています。JA子会社の農場での研修のほか、生産者の組織であるスイカやブロッコリーなど作目別の生産部が、新規就農希望者を研修生として受け入れ、一人前に育ててくれます。

――担い手を含めた労働力の確保が、これからの産地の維持に欠かせないと思いますが、どのような地域農業のビジョンを描いていますか。

当面は労働力に見合った産地をつくっていくことになりますが、労働力不足は機械化、省力化によってカバーできると思います。農家の高齢化が進むと小規模農家の離農が増えて農地に余裕が出てきます。これを引き受け、産地を維持・拡大するには生産の効率化が必要です。いまJAで力を入れているブロッコリーの栽培はその例で、いまでは収穫作業以外、ほとんど機械化し、規模を拡大している生産者が生まれています。すでに収穫機も開発されており、500haのブロッコリー産地づくりにつなげることができると期待しています。

白ネギやスイカ、梨の生産者も元気で、新規に栽培する人も増えています。畜産も繁殖和牛日本一を自負しており、生産者が頑張っています。管内はラッキョウやナガイモ、トマトなど、規模は小さくても、なんでもできるバランスの取れた産地です。ただ、品目の多さがコスト高になり、JAの経営にとって負担になっている面もあります。今後、どのように品目を絞るかが課題です。

 JAcom 【コロナ禍乗り越え 築こう人に優しい協同社会】JA鳥取中央・栗原隆政組合長に聞く「シン・地方創生総合戦略」2022年2月10日

後継者との面談

自ら毎月定例記者会見

――ブロッコリー産地づくりでは、組合長就任以来、励行している組合員農家の訪問がきっかけになったと聞きましたが。

JAの自己改革は組合員との対話と情報発信が生命線だと考え、積極的に取り組んでいます。ブロッコリーの拡大は、訪問活動で大規模に作っている担い手農家の話を聞いたことがきっかけですが、機械化等によるスマート農業が可能で、需要も期待できること、そしてJA鳥取西部と共同で利用できる全農の広域共選施設があり、「これならいける」と確信を持ちました。訪問活動は、常勤役員全員に義務付けています。月に1回、必ず1、2戸の担い手農家を訪ね、意見や要望を聞きます。

訪問活動では生産者から建設的な意見が多く出ます。ブロッコリーの生産振興や、地元での就農相談会開催のほか、選果場からのファクスやメールを使った連絡情報システム、生産部の女性参画など、訪問で提案のあった組合員の意見で、実現にこぎつけたことは多くあります。

対話で大事なことは、誰でも発言できる環境をつくることだと思います。生産部や女性・青年部などとの座談会を開いても、代表者の意見だけでは不十分です。また大勢集めても、発言者は限られ、苦情や不平・不満の場になることが少なくありません。そうした意味でも、JAの役員が直接訪問し、ざっくばらんな雰囲気で組合員と話をすることに意味があると考えています。

――「対話」の意義がよく分かりました。対話のほかJAからの情報発信に力を入れていますね。

「伝える」より「伝わる」

JA自己改革の生命線は情報発信と対話だと考えています。情報発信では、組合長就任以来、広報活動に力を入れてきました。就任して1年後から毎月、マスメディアを集めて定期的に記者会見を行っています。「中部農業みらい宣言」と題して管内農業のアピールに努めています。農業・農政の情勢や、季節に応じた品目の生産現場の情報、さらにはJA自己改革の取り組み状況などを発信しています。

JA自己改革といっても、実際にJAが何をやっているかは、なかなか伝わっていないのが実態です。同じことを繰り返す必要があります。そのためには何度も、地元で放送するケーブルテレビは適しています。視聴者からは「わかりやすい」との評価を得ており、情報はこちらから一方的に「伝える」のではなく、相手に「伝わる」発信でなければならないと思っています。それには材料集めと画面資料作成が大変ですが、品目の多さが広く農業を知ってもらうためのプラスになっています。

――農業についてどのような思いを持っていますか。

私の家は、当時水稲と梨を栽培する農家でした。地元の大学の農学部を卒業してJAに入りました。職員の一時期を除き、販売を含めずっと営農関係の仕事でした。経営の立場からは、二宮尊徳が「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」と言っていますが、協同組合はまさにそのような組織であるべきだと感じます。

JAには、国民に食料を安定して供給する役割があります。JAは素晴らしい組織です。外にいると分からない面もありますが、中に入ってみると、その良さがよく分かる組織です。自助努力で経営を工夫するのは当然ですが、困ったときは相互扶助で助けてもらえます。これが協同組合のいいところです。

 (農協協会参与 日野原信雄)

【JA鳥取中央の概要】1998年倉吉市農協、羽合町農協、泊村農協、東郷町農協、三朝町農協、関金町農協、北条町農協、大栄町農協、赤碕町農協が合併して鳥取中央農協(JA鳥取中央)となる。2007年東伯町農協と合併。▽組合員数 2万1,848人(うち准組合員 1万897人)▽貯金残高 1,560億9,000万円▽長期共済保有契約高 5,076億8,000万円▽購買品供給高 35億2,000万円▽販売品取扱高 167億3000万円(平成2年度末)