「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
筆者は、カメラとマイク、スピーカーを備えたMeta(旧Facebook)のスマートグラス「Ray-Ban Stories」を日常用のメガネとして着用しようと心に決めていた。ところが、メガネ店に向かうとおかしなことが起きた。
(写真左から)レノボの「ThinkReality A3」、Nrealの「Nreal Light」、「Ray-Ban Stories」、筆者のメガネ提供:Scott Stein/CNETRay-Ban Stories用に作った特別な処方レンズを持ち込んだところ、LensCraftersの店舗で取り付けてもらえなかったのだ。このメガネ店のスタッフによると、Ray-Ban Storiesへの取り付けはできないという。それに関する社内メモさえあった。メガネは処方レンズ付きのオーダーメイドでなければならないと、少なくとも筆者が問い合わせた全員から言われた。
この1件は、今なお残る、スマートグラスの大きな問題を浮き彫りにしている。いまだ日常用の度付きメガネとして使えないものが、メタバースへの入り口になどなりえない。
そしてこれは、スマートグラス全体に関わる問題だ。メーカー各社が打ち出す先進的な拡張現実(AR)グラスの斬新なビジョンは、ユーザーがいつでも使いたい時に装着することを前提としている。だがそれにはまず、この種のスマートグラスが本当に日常用のメガネとして機能する必要がある。
Amazonの「Echo Frames」やBoseの「Bose Frames」は、普通のメガネに近づいているが、これらもやはり、行きつけのメガネ店で処方レンズを取り付けてもらうことはできないかもしれない。
第一、Ray-Ban StoriesはARグラスではなく、フレームにBluetoothオーディオが備わったカメラ付きメガネにすぎない。本格的なARグラスとなると、さらに道のりは険しいだろう。では今後、ARグラスはどのような展開を見せるのだろうか。
ARグラスの今後を占うなら、2022年にARグラスを手がける個々のメーカーではなく、その大半にチップを提供するQualcommの取り組みに目を向けるべきだ。同社は、スマートフォンと連携するスマートグラスの流れを生み出すものとして、両デバイスをつなぐ役割を担うカスタムソフトウェアを開発している。AR開発者向けプラットフォーム「Snapdragon Spaces」を使ったスマートフォン接続型ARグラスは2022年に投入される予定だ。Snapdragon Spacesは、Qualcommのチップを採用する一部のハイエンドの「Android」搭載スマートフォンに対応する。また、これまでにも、Qualcommの技術を採用したARグラスはいくつか提供されている。
Nrealのスマートグラス「NrealLight」は、今後の展開として期待できる例だ。厚みのあるこの製品は、遠目ではほぼ普通のメガネと変わらない。近くで見ると、レンズの下部は透明だが、上半分には、処理技術や位置追跡用カメラ、3D画像を実世界に投影するものとみられる角度のついたハーフミラーなどが詰め込まれている。視覚効果は、Microsoftの「HoloLens」やMagic Leapのヘッドセットの機能縮小版といった感じだ。仮想現実(VR)と違って、これらのARグラスは、すべてのものに輝く幻のようなホログラフィック効果を映し出す。
角度が付いたNRealLightのレンズ提供:Scott Stein/CNETスマートグラスを利用するには、度付きレンズの装着が不要なくらい視力が良いか、コンタクトレンズを装着するか、何らかの方法で度付きのインサートレンズを追加しなくてはならないだろう。しかし筆者ほどの近視であれば、インサートレンズの追加は難しいため、使い捨てコンタクトレンズの装着が必要となる。
レノボのスマートグラス「ThinkReality A3」は、レンズの半分がカメラになっているという点で、NrealのARグラスとよく似ている。もう一つの類似点は、通常のメガネをかけた状態では装着できないことだ。一方、Windows PCやAndroidスマートフォンと連携できる点は長所と言えるだろう。スマートグラスは、あらゆるデバイスにバーチャルなモニターを追加する「目のヘッドフォン」となるのだろうか。もし対応するPCやスマートフォンを持っているなら、少なくともThinkReality A3に関する限り、答えはイエスだ。
Qualcommによると、レノボ傘下のMotorolaも独自のARスマートグラスを発表する予定だという。
「Google Glass」が、ユーザーの視野に情報を映し出すウェアラブルなヘッドアップディスプレイ(HUD)というアイデアを披露したのは10年近く前だが、今も多くの企業がこのアプローチに沿ってスマートグラスを開発している。最近では、スマートフォンで知られる中国の家電メーカーOPPOが独自の単眼スマートグラス「Air Glass」を発表した。Air Glassは片目用で、スマートウォッチに表示されるような情報がレンズにポップアップ表示される。そう聞いて、約10年前のGoogle Glassを思い出した人は少なくないはずだ。
Air Glassの利点は、メガネの上から装着できることだ。ただし、このメガネはAir Glassのセットに含まれるものでなければならず、普段のメガネに重ねては装着できない。
このアプローチを採用する企業はOPPOだけではない。次世代のスマートグラスは、Google Glassのアイデアを足がかりに本格的なARを実現することになるだろう。しかし、それにはまだ数年を要する。