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25/03/2022
スマート農業とは、ロボット技術やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)といった先端技術を活用し、超省力・高品質生産を実現する新たな農業スタイルのことです。
日本の農業分野で徐々に広まりを見せている「スマート農業」。農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)ともいえます。スマート農業では、具体的にどのようなことが可能なのでしょうか。本記事では、スマート農業の目的やメリット・デメリットなどを解説します。
スマート農業は、これまで農業が抱えてきた問題を解決するきっかけとして、大きな期待と注目を集めています。
「スマートシティ」や「スマートハウス」など、先端技術を使って効率化や省エネ化をおこなうものを「スマート○○」と称することが増えています。まさにスマート農業もこのような試みの1つといえます。
スマート農業は農林水産省でも強く推進されており、実証プロジェクトの実施やガイドラインの作成、データ連携基盤・支援サービスなどの紹介など、普及のための環境づくりに大きく力を入れています。
また、海外では「Smart Agri(スマートアグリ)」「Agri Tech(アグリテック)」などの呼び名で知られており、アメリカやオランダなど世界の農業大国を中心に多数の国で導入されています。
スマート農業の目的は、「農業が抱えているさまざまな課題を解消すること」です。
農業が抱える代表的な課題の1つに人手不足(労働力不足)があります。基幹的農業従事者数は2015年には176万人いましたが、2020年には136万人まで減少しています。また、65歳以上の割合は2015年の64.9%から2020年には69.8%まで増加。人が減って高齢化が進んでいることがわかります。
種植えや生育状況の管理、農地の手入れ、収穫、選定作業など、農業作業は非常に多く、どの作業でも人員が必要です。トラクターやコンバインなどの農機操作も熟練者でなければできない作業が多く、若い人が技術を取得するまでに相当な時間がかかってしまいます。
こうした背景もあり、就農を目指す人は多くありません。人手の確保に苦慮している農家が多数を占めるのが現状です。農業従事者の平均年齢は67.8歳と高めなので、今後は若い人に新規参入を促す必要もあります。
若い人の新規参入と並行して、スマート農業のように先端技術を利用すれば、人手が足りない部分をロボットなどの機械で補うことが期待できます。作業の過酷さも農家にとっては深刻な課題です。農業は生きた作物を相手にするものなので、日々その成長を管理しなければなりません。したがって休みが取りづらく、作業の量も多くなります。
高齢化が進む日本の農家においては、過酷な作業の多さは非常に大きな問題です。そのような対策としても、テクノロジーを活用したスマート農業が重要となります。さまざまな作業を効率化し、作業量を減らすことで、農家の働きやすい環境を整えられます。
農業はキツく、ツラい仕事だとイメージされやすい分野ですが、スマート農業で農作業の効率化や省力化がおこなわれれば、就農へのハードルが下がり、農業従事者の増加が期待できるでしょう。
さらに、農業ならではの技術の継承にもスマート農業は効果があると考えられます。農業をはじめたその日から、上手く作業を進められるわけではありません。長年蓄えた知識や経験から培われた熟練技術で管理することにより、よい作物が育っていきます。
人手不足、高齢化に悩まされがちの現状では、このような農業技術の継承がしにくい問題もあります。しかし、スマート農業の先端技術を活用すれば、新規就農者も早い段階で農業経験者のように作物を管理していけると考えられます。
以前にTBSで放送された、池井戸潤氏原作のドラマ『下町ロケット』をご存じでしょうか。このドラマ内で、GPSを搭載した無人で自動走行作業ができるトラクターが登場しました。
ドラマだけの話と思いきや、ドラマの技術監修を担った株式会社クボタが自動運転トラクター「MR1000Aアグリロボ(無人仕様)」という製品を実際に販売しています。
株式会社クボタのホームページを見ると、トラクター以外にも、自動運転アシスト機能付きコンバインが販売されています。このコンバインは、オペレーターが搭乗した状態で自動運転による稲や麦の収穫がおこなえます。
自動運転の農機を活用することで、農家の負担を減らせます。省人化による労働時間の軽減や、生産量の増加にもつながるのです。
スマート農業に活用される先端技術には複数の種類があります。そのうちの1つが「IoT(Internet of Things)」です。IoTを利用することで、消費者のニーズを把握することができます。
IoTについてはこちらの「IoTの意味とは?社会が変わる技術の仕組みをわかりやすく解説」でくわしく解説しています。
どのような層の消費者にどのような作物が求められているのかわかれば、ニーズに合った農作物を集中的に生産することが可能です。
また、生産したものを消費者の手元に届ける流通に関しても、より効率的な経路を模索することができるでしょう。さらに、土壌や地域の気候などをデータ分析し、それに基づいて適した作業も可能です。IoTが導入された農業機器も多数開発されています。
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このようなIoTの活用事例として挙げられるのが「ドローン」です。近年さまざまな産業分野で取り入れられているドローンですが、農業においても有効活用が期待できます。
ヤンマーアグリジャパン株式会社が販売している「リモートセンシング用ドローンP4M」というドローンがあります。このドローンにはカメラが付いていて、農作物を栽培する場所である圃場(ほじょう)の状況確認が可能です。さらに圃場内の生育状況を可視化できるので、栽培の効率化やノウハウの継承にも活用できます。
たとえば米の栽培について、ドローンを使い田園の環境や稲の発育状況などの記録を細かに計測し、適切な作業をおこなう事例があります。細かな発育管理ができるので、農薬や化学肥料などを極力使わないナチュラルな栽培が可能です。
また、大規模農業をおこなうことで知られるアメリカでも、ドローンを使ったスマート農業の取り組みが進んでいます。広大な農地もドローンを使用することで、すみずみまで目が行き届くので、農薬の散布や土地の分析なども人手を割かずにおこなえます。
もう1つ、スマート農業での活用を期待されているものが「人工知能(AI)」です。さまざまな分野において導入されはじめているAIですが、農業分野においても大きな可能性を秘めています。
それは、新規就農者でも農業を成功させられるノウハウを蓄積させること。農業でまとまった収穫をあげるためには、ある程度の経験が必要であると考えられています。農業はその土地の環境や天気、気候などとともに、作物の発育などについてもこまめな観察が必要です。
作物の状況によって、どのような対応をするのが適切なのか。このような判断は、農業をはじめたばかりでは、なかなかできません。結果、適切な対応ができるような知識や経験が蓄積されるまで、新規就農者の生産量は伸び悩むのが従来の認識です。
しかし、AIを取り入れることで、作物の微妙な変化や発育状況を機械が分析し、データ上で最適な対応を導きだすことが可能になります。この仕組みであれば、新規に農業をはじめた人でも、初年度からまとまった収穫量を出すことが期待できるでしょう。
株式会社ルートレック・ネットワークスが開発・販売する「ゼロアグリ」というAI潅水施肥システムがあります。これは潅水と施肥をIoTとAI技術によって自動化する装置で、農業の高品質・省力化を実現するものです。
各種センサー情報をゼロアグリのクラウドへ集約し、クラウド上で潅水施肥量(液肥供給量)をわりだし、ゼロアグリ本体から自動で供給し土壌環境制御ができます。
PCだけでなく、スマホやタブレットからも各種データを確認できるので、どこからでもデータの確認が可能です。新規就農者にも利用しやすいので、参入がしやすくなります。
また、AIが搭載された収穫ロボットもあります。パナソニック株式会社が開発しているトマト収穫ロボットをご紹介します。このロボットはAIを活用して収穫に適した果実を認識し、位置を特定。自動で収穫してくれるAIロボットです。ロボットなので、人が寝ている夜間に収穫作業ができるので、生産性が向上します。
スマート農業のメリット1つめは、少ない人員での作業が可能なこと。農作業の多くの場面でロボットなどの機械が活用されれば、少ない人数でも多くの作業ができます。人手不足に悩まされがちな農家にとって、これは大きな利点です。
2つめのメリットは、生産量のアップが期待できること。スマート農業では、少ない労力で従来より作業量をアップできます。先ほど紹介したパナソニックのAIロボットのように、人が休んでいる時間に作業を任せられるため、生産量はアップします。また、データを活用することで作業精度も上がり、生産量のアップにつながるでしょう。
その結果、今までより多くの作物を収穫できると考えられます。これは、農家にとっても収入が増えることにつながりますが、国としても食料自給率アップが期待できます。
3つめのメリットは、環境への負荷が減ること。データを活用して、ドローンによる農薬散布がおこなえるので、農薬の使用量を大幅に減らせます。企業公表値によると、農薬使用量が1/10まで減った例もあるそうです。
さらに、AIを活用することで液肥やCO2の余分な使用を抑制できます。AIを活用すれば高精度な需要予測ができ、食品ロス削減にもつながるでしょう。
4つめのメリットは農業への新規参入がしやすくなること。農業には熟練の知識・技術が必要な場面が、多々あります。経験がなければなかなか作業がうまくいかず、生産量につなげられない問題がありました。
しかし、スマート農業の先端技術でデータなどを活用すれば、農業をはじめたばかりでも安定した成果を出すことが可能になります。経験がなければ生産量につなげにくい、難しいといったイメージがなくなり、新しく農業をはじめたい人が増えると考えられます。
NECソリューションイノベータ株式会社が提供している「NEC 農業技術学習支援システム」。このシステムでは、熟練農業者がおこなっている作業のポイントを学習コンテンツ化して、PCやタブレットで新規就農者が学べるようになっています。熟練農業者の匠の技「暗黙知」をICT技術で「形式知」化して新規就農者に継承していく仕組みが整えられています。
スマート農業の大きなデメリットは「導入のためにコストがかかる」こと。スマート農業にはロボットやシステムなどさまざまな機器の使用が不可欠であり、はじめるとなれば初期投資が必要になります。
農家向けのロボットは工場などで使用しているものより安価な傾向にありますが、気安く買えるほどリーズナブルかといわれるとそうではありません。
スマート農業はまだ始まって日が浅い分野であるため、どの程度成果が出るのかわからない部分もあり、費用対効果を見極めにくいことも課題でしょう。
また、AIなどによるデータ管理について、データ以外のことに対処しきれない可能性があるのもデメリットといえます。AIはさまざまなデータを分析し、多様な事案に対応するものです。しかし、農業は天候や気温など自然の動きに大きく左右されます。ときにはデータにもない予期せぬ出来事が起こり、対応しきれなくなることも考えられます。そして、スマート農業の技術を駆使するためには、それを使えるスキルを身に付けなければなりません。この点もデメリットの1つと考えられます。
高齢化が進む農家では、先端的な難しい技術を伝えるのは簡単ではありません。スマート農業のスキルを教えられる人材の育成なども必要でしょう。
農業が抱えるさまざまな問題を解決する突破口となることが期待されるスマート農業。成功事例が多く、また更なる開発も進められており、大きな可能性を秘めています。
ただし、開発途上の部分もあること、また多数のメリットとともにデメリットもはらんでいることは忘れてはいけないでしょう。スマート農業について深く理解したうえで有効に活用すれば、日本の農業は新たなステップへと進めるかもしれません。
参考:
農林水産省 スマート農業
農林水産省 スマート農業の展開について
農林水産省 農業労働力に関する統計
≫ 【導入事例やサービス紹介も】さくらインターネット お役立ち資料ダウンロードページ
執筆・編集さくマガ編集部
さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。