「ポータブルWi-Fi」レビュー
25/03/2022
吉田氏からの最初の質問は、「なぜジオラマで作ろうと思われたのか?」というもの。「ファンタジアン」は前後編に分かれているが、全編のマップはジオラマを撮影したものが使われている。その斬新な手法には、吉田氏ならずとも「なぜ」という疑問がわいて当然だ。「作り手からしたら、めちゃくちゃ大変だと思う」という吉田氏に、「ほんとですよね」と坂口氏。
Apple Arcade限定コンテンツとして公開されている「ファンタジアン」「ジオラマは、作るのが大変ということもあるんですが、放っておくと色落ちしたり、粘土が溶けたりして劣化しちゃう。だから写真を撮り直すと別の風景になってる。アナログですよね」と苦労を語りつつも「昔からジオラマが好きだったので、ここまで高解像度になったらその写真が使えるのかな」という技術的な理由と、「テーマ的に、混沌と秩序みたいな話しだったので、アナログとデジタルでちょうどいいかな」という世界観的な理由を語った。ジオラマというアナログには、理路整然と作られるCGにはないカオスがあり、それが作品に合っていたからというのだから、坂口氏の中では必然的な帰結といえるだろう。
最初にCGでモックアップを作ったのか、という吉田氏の質問に対しては、CGは作らず数枚のコンセプトアートとマップを使ってシナリオに合わせて作ったと坂口氏。だが、専門の業者といえども、どうしても違う部分が出てきてしまうため、そこはシナリオの方を変えることで対応したのだそうだ。例えば、歩ける距離がほとんどないのに、語るべきシナリオが多すぎて尺が合わない時には、語る場所を別のシーンに変更する、など。
CGではレンダリング時にポストエフェクトという後処理をすることで、CGに様々なニュアンスを追加することができるが、ジオラマの場合は、例えば光がある場所にはあらかじめLEDの光が組み込まれており、それをポストエフェクト処理して使用している。写真にも、光源を追加するポストエフェクトはあるが、「ジオラマ作家さんが勝手に電源を入れて持ってくるんですよ。後からやるよと言ってるのに」と、ジオラマ作家魂が生み出したこだわりだ。
フィールドはジオラマ作家が作ったジオラマを撮影して使用しているゲームシステムに関しても吉田氏から「ファンタジアン」独自の「ディメンジョンバトル」について質問が出た。「ファンタジアン」は、基本的にはエンカウントバトルだが、敵とエンカウントした際に敵を異次元に飛ばしておいて、後から戦うことができる。すぐにプレイを中断できる、時間のかかる部分は後からじっくり遊ぶといった、スマートフォンユーザーのプレイスタイルにあったシステムだ。このシステムについて「クラシックなRPGをイメージしているとは思うが、最初からあの作りになっているのか」と吉田氏。坂口氏は「引退作のつもりで作ったので、自分が好きなように作っただけ」とあっさり回答。
ジオラマのマップを散策している最中にエンカウントしてくる敵が鬱陶しくて、バトルは後回しにしてじっくり歩きたかった、というきわめて個人的な理由で生まれたシステムだったが、実際に遊んでみると「ディメンションバトルで貯めた敵と戦うことがまた気持ちいい」(吉田氏)という効果が出た。
ジオラマ作家のこだわりにより、輝く部分にはLEDライトが埋め込まれていたりと、リアルでしかできない表現が魅力最初から決めて始めたというよりも、実際にプレイしてみて感じたことを盛り込んでいくという坂口氏の開発姿勢は、最初から全体を決めて進めていく吉田氏とは真逆。そんな自身の開発スタイルに対しては、坂口氏自身も「僕の作り方のよくないところなんですよ、結構スクラップ&ビルドで」と苦笑していた。「ファンタジアン」のバトルシステム「エイミング」は、白い軌跡でつながれた敵を一気に攻撃にするというもので、ディメンジョンバトルで異次元に送った敵を一網打尽にすることができる。
だが、このシステムは最初からあったわけではなく、当初は物理演算で攻撃していた。だが面白くなかったので、どんどん変化していった。「プログラマーは大変だと思います」と坂口氏。エイミングと相性の悪いATB(アクティブタイムバトル)を廃し、アクション性をそぎ落とした結果、戦略性の高い戦闘が楽しめるゲームへと昇華していった。そんなゲーム性に対して吉田氏は「クラシックといいつつ、今風。面白さと遊びやすさを兼ね備えている」と絶賛した。