ECを成功に導く商品開発、ブランディングとは?「タマチャンショップ」田中副社長とフラクタ河野社長に学ぶ極意

ECを成功に導く商品開発、ブランディングとは?「タマチャンショップ」田中副社長とフラクタ河野社長に学ぶ極意

自社ECに加えて、楽天市場やアマゾンなどのECモールでもショップを展開する「タマチャンショップ」。九州の自然食品を扱うネットショップとして、EC展開は17年目になる。商品開発や企画力を武器に事業を展開しながら、自社のブランドづくりにも力を入れてきた。かたや、他社のブランディング支援を行うフラクタも、コロナ禍で新たなブランドの創出の支援に挑んでいる。「タマチャンショップ」の田中耕太郎副社長とフラクタの河野貴伸社長の2人が、ブランディングについて互いに質問をぶつけ合った。

顧客のニーズをくみ取って商品を開発

河野貴伸氏(以下、河野氏):「タマチャンショップ流『ヒト』『コト』『モノ』で創るブランド力」というテーマで、お話をうかがいたいと思います。

私が一番お聞きしたかったのは商品開発についてです。「タマチャンショップ」は商品1つひとつにとてもこだわっていて、表現はもちろんのこと、商品の開発力や企画力が強いと感じています。商品開発はどのような流れでしょうか?

田中耕太郎氏(以下、田中氏):「タマチャンショップ」は九州を拠点としたショップで、「日常で食べる自然食」と「日常では摂取しづらい栄養にフォーカスした健康食品」という2つの軸で暮らしをサポートしています。

商品の開発や企画は、基本的に私が9割近くを手がけています。「タマチャンショップ」では、企画開発したものをスピード感を持ってどんどん展開していくことを重視しています。

それと同時に、健康面を気にしたり、栄養を効率的に摂取したりといった消費者のニーズについて日夜考えています。作れそうなものであれば試作してみたり、メーカーを通して理想に近づけたりしつつ、実際にニーズがある商品なのか検討しています。

河野氏:まずは自分で作ってみるというか、形にしていくスピード感が「タマチャンショップ」の強みでしょうか?

田中氏:「タマチャンショップ」の一番の強みだと思います。大手企業では商品開発の段階から稟議などの作業が発生します。それに対して「タマチャンショップ」では、私が作る段階ですぐにリリースできるくらいの状態になっています。

ただ、当社でもデザイナーや企画チームに相談して、その商品に「タマチャンショップ」らしさがあるかを話し合い、最終的にその商品に合うデザインに整えていきます。

河野氏:世の中のニーズについて仮説を立てて商品を開発していくのは、相当ヘビーな作業ではないでしょうか。

田中氏:そうですね。それでも、その商品が世の中に本当に必要かを見極めることは、すごく大事だと思っています。それがないと、基本的に自分たちのエゴになってしまうので。そのため、マーケティングしながら商品を開発するというのが大事になってきます。

河野氏:商品を購入したお客さまの声は気になりますか?

田中氏:一番気になりますね。リリースした後にお客さまの感想を見て、悪い評価であればどこに問題があったか、どう改善すれば良いかを考えます。その意味では、リリースした後というのは、商品のブラッシュアップをする上でとても大事な時期と言えます。

河野氏:それはまさにDtoCの1つの重要なプロセスだと思います。お客さまと直接やり取りして、お客さまを理解して、どんどん提案していくというサイクル。これが圧倒的な商品開発力や企画力につながっていると感じました。

商品が会社の理念やビジョンを物語化する

河野氏:「タマチャンショップ」はサイト内で多くのコンテンツを展開しています。ページのデザインやコンテンツを作るにあたって、「美しい」「格好良い」などいろいろな選択肢があると思います。その一方で、お客さまが文章を読んで理解しやすい、間違った理解にならないように気を配っているなど、接客的な要素も大事になります。

デザインの選定や文章の読みやすさには、サイト全体のバランスが求められます。こういった情報発信で、普段気をつけていることはありますか?

田中氏:そこは非常に重要な点だと思います。優先順位として、まずは自分たちの理念やビジョンについてデザインを通じてブランディングし、それからSNSを利用して発信していきます。

この順番が逆ではいけないと思っています。あくまでも理念や思いなど自分たちが伝えたいことがあって、そのためにどういったツールを使うかを大事にしたい。TikTokが流行っているからと無理にTikTokを使うのではなく、そのツールは自分たちが伝えたいことと相関性があるのか、しっかり考えないといけないと思います。

今はLINEやInstagramなど便利なツールがありますが、それが「伝える」ツールなのか「売る」ツールなのか、メリハリをつけて活用することが大事だと感じています。

田中氏:ブランディングについてはいろいろな考え方や理論がありますが、私の場合は会社を立ち上げた際の理念やビジョンがすごく大事です。しかし、ともするとそこを忘れがちで、「何が本当にやりたいことだっけ?」となるケースが多々あると思います。

時代の動きが速すぎて、特にコロナ禍以降は新しいツールや情報が多すぎて、そこに追いついていかないといけないという焦りもあります。その結果、安易に安売り合戦に参入してしまうこともあります。

しかし、こうした時代だからこそ、自分たちの理念やビジョンを改めてスタッフと共有し、その上で「ヒト」「コト」「モノ」が一緒になって商品を生み出していく。その延長線上にリピーターやファンの方が熱狂してくれたり、口コミが広がったりしていくのかなと思います。

商品が会社の理念やビジョンを物語化し、その物語を伝えていくところに売り上げや利益が生まれていくのではないかと思います。

ですから、物語を自分たちでどう作って、それをどのように売り上げにつなげるか。結局、本質はここかなという気がします。そのためには、買った後にお客さまが語る要素がないといけないと感じていて。お客さまが語れる要素をしっかりと伝えていくべきじゃないかと思っています。

河野氏:そのあたりが「タマチャンショップ」らしさという気がします。そしてこの「らしさ」みたいなものをきちんと作っていくのが、ブランディングにおいてはすごく重要だろうと感じています。

ECを成功に導く商品開発、ブランディングとは?「タマチャンショップ」田中副社長とフラクタ河野社長に学ぶ極意

数年かけて「タマチャン」らしさを演出

河野氏:3つ目の質問ですが、「タマチャンショップ」のブランドを構築していく上で、特に苦労した点についてお聞かせください。

田中氏:それはもう1つに絞られます。先ほど言われていた「らしさ」をいかに浸透させていくか、そのことをここ数年かけて行ってきました。

例えば出店しているECモールのお客さまから質問が寄せられる際、最初に「楽天で買ったんだけど」「ヤフーで買ったんだけど」と言われるわけです。しかし私たちからすると、まずは「タマチャンショップで買ったんだけど」と言ってもらわないといけない。つまり、出店先のモールではなく私たちのブランドで語ってもらいたいわけです。

そのために私たちが徹底したのは、デザインの統一です。商品のデザインはもちろんですが、配送用段ボールや梱包材も統一し、ECモールらしさを消して「タマチャンショップ」らしさを演出していきました。

それを2、3年くらいかけて取り組んでいくと、お客さまからの問い合わせで「タマチャンショップで買ったんだけど」という声が徐々に多くなってきました。

河野氏:そこはすごく大事なポイントですね。ただ、おっしゃったように効果はすぐには出ない。2、3年続けてようやく成果が見えて、「やって良かった」となると思います。その意味では、この2、3年をいかに我慢して続けていくかが大事ですね。

田中氏:楽天、ヤフー、アマゾンのようなECモールで展開していく場合、そのなかでいかに個性をとがらせていくか、つまり差別化がファン作りに大事だと思います。ここを突破しない限り、自分たちらしさが出てこなくて、お客さまが競合他社に流れてしまう。当社としても自分たちらしさを確立すること、個性を打ち出すことに本当に苦労しましたね。

コロナ禍で「生き残る」ためのブランディングに移行

田中氏:私から質問させていただきます。コロナ禍で、ブランディングの面で変化は出てきたでしょうか? というのも、お客さまがブランドを見る角度が少しずつ変わってきているように感じており、それを反映する形でブランディングの面でも変化が起きているのか気になっています。

河野氏:変化という点では、すごく大きな変化があったと感じています。

コロナ前の世界では、ブランディングは比較的、他社よりも抜きん出ることを目的とすることが多かったんですね。ただ、私たちは以前から「ブランディングというのは『生き残る』ためにやることであって、他社から『抜きん出る』ためにやるというのは難しい」という話をしていました。

先ほどのお話でもあったように、ブランディングというのは積み上げていくものですし、泥臭いこともやっていく必要があります。ロゴを変えたから急に売り上げが伸びるわけではありません。積み上げによって、お客さまに選んでいただく、信頼していただく。そうして選ばれ続けた結果、「生き残る」のだと思います。

コロナ禍において、今までの商売の仕方では立ち行かなくなって変革を迫られるなかで、「生き残る」ためにブランディングを考える企業が増えたと思います。それは嬉しくもあり、同時に過酷な状況の現れだとも感じています。

「ブランディング=デザイン」という誤解

田中氏:河野さんのもとにはいろいろなブランディングの案件が寄せられると思いますが、昨今の傾向はありますか? 皆さんブランディングでどういった点の改善を求めているのでしょうか?

河野氏:「ブランドとして上手くいっている企業のようなことを実現したい」「△△さんみたいになりたい」という相談からスタートすることが多いですね。

そのなかでも多いのは、デザインやロゴは外部に依頼して作ってもらうものの、現場のビジネスに反映されない、と言うケースです。つまり、作ってもらって終わりで、実装のフェーズで上手く嚙み合わず、施策と連動しないのです。そうした問題を改善したいというニーズが多いです。

田中氏:確かに私たちも、そういう時代がありました。私がデザイナーと相談する時も、その内容は漠然としたものでした。競合が増えてくるなかで、常に走り続けないといけない。それで何かをしないといけないのですが、何をすれば良いのかはわからない。

河野氏:よくあるのが「ブランディング=デザイン」のように思われることです。しかし、本来はデザインの根本となるアイデアや、「こういうお客さまに対して、こういう価値を提供したい」ということを考えるのが、ブランディングだと思うんです。そこは事業者自らが導き出していかなきゃいけないと思います。

その根本がないと、どんなに優秀なデザイナーに依頼しても上手くいかないということが起きるので、その根本のところを最初に作っておくのはとても大事だと思います。

顧客と一緒に夢を叶える「ブランディングの最終形」

田中氏:3つ目の質問ですが、ブランディングを手がける上で最も大切にしていることや、大事なポイント「ベスト3」があれば教えてください。

河野氏:ブランディングはいろいろな解釈があるのですが、根源にあるのは「誰にどんな価値を提供するか」ということだと思います。その上で、大事なことを3つ挙げるとすると以下のようになります。

①一方通行の価値の押し付けを避ける

河野氏:私が考えるブランディングの大事なポイント1つ目は、「経営と切り離してはいけない」ということです。つまり、素敵なブランドができました、素敵なロゴができました、素敵なコンセプトができました、でも売れませんでした。これではダメだということです。

なぜなら、ブランディングはお客さまとのコミュニケーションです。一方通行の価値の押し付けになってはいけない。お客さまがお金を払って商品を購入し、満足したり、時には不満があったりということを繰り返しながら、企業は良いブランドを作っていきます。これは絶対忘れてはいけないと思います。机上の空論になってはいけないということです。

②デジタルとアナログで1つの世界を作る

河野氏:大事なポイントの2つ目は、Eコマースやデジタルの活用はすごく大事である一方、アナログをデジタルに変換するだけだとまったく意味がないということ。

特にコロナ禍に起きたことですが、「とりあえずECサイトを作れば良い」「全部ECで売るようにしよう」というのは、デジタルを活用できているとはいえない状態だと思います。真のデジタルネイティブというのは、デジタルとかアナログとか関係ない人たちなんですよね。

多くの人がお店に行きにくくなったからとECにすべて振り分けるのではなく、お客さまとより安心してコミュニケーションできるリアルな場をどうやって作れば良いか知恵を絞り、その先の購入のプロセスでどうやってECにつなぐかを考える、そういったフラットな地平線みたいなものを作っていく必要があると思います。

この時代のブランディングというのは、デジタルを前提としつつアナログも意識した上で、両者を融合して1つの世界を作っていくことをめざすべきだと感じています

③自分たちで自走してブランディングをし続ける

河野氏:最後の大事なポイントですが、自分たちでブランディングすることがすごく大切です。専門家に指摘されてそれで終わるのではなく、自分たちで自走してブランディングし続ける。やはりこれができないと、結局どこかで自分たちの魂じゃないものになってしまいます。

そこはすごく苦しい部分でもありますが、自分たちでブランドを成長させ続けるという覚悟、それがブランディングをしていく上ですごく大事なことだと考えています。

田中氏:私たち「タマチャンショップ」は、実店舗もやっていますが、もともとネット通販からスタートしています。デジタルとアナログを融合することがこれからますます大切で、同時にデジタルとアナログそれぞれの特性を生かせる領域を見定めることが今後は差別化になると思います。

そして、ブランディングはこれまで企業側から何かを伝えることだけでしたが、今後は自分たちの理念やビジョンを掲げて、お客さまと一緒に夢を叶える。それが「ブランディングの最終形」になっていくような気がします。

その際に自分たちが本当に愛しているもの、自分たちが語れるものを届けるべきであり、自分たちが語れないものを売ろうとしても、そこはすぐに見透かされてしまう気がします。まずは自分たちが熱狂してこそ、お客さまも熱狂してくれるのではないでしょうか。